俺と青峰っちってホントびっくりするほど趣味とか好みとか育った家庭環境は違うんだけれど、時々異様に似てるなって思うこともある。
すごく下らないことなんだけどね。俺はそういうの見つけるの結構好きなんス。
たとえばなぜか大晦日の晩御飯はすき焼きにするってこととか。
(なんでだろうって話したら親世代がすき焼きって家族で囲むごちそう的なイメージなんじゃないかという結論でまとまった気がする。)

「青峰っちってホント濃い味ってか甘辛いの好きっスよね〜。デブらねーのが不思議っス!」
「食った分消費してんだからデブるわきゃねーだろが。むしろお前が細すぎる。もっと肥えろ!」
「やーっスーっ!」

そのすき焼きを付けて食べる生卵のズルズルしたヒモっぽいヤツは絶対取らなきゃヤダとか。
(ウチではあれおへそって呼んでて、青峰っちんトコはへその緒だったらしい。
で、こないだ黒子っちにホントの名前は「カラザ」って言うんだって教わった。)
とにかくその……おへそ――俺はおへそって呼ぶからいいんス!――青峰っちぶきっちょでうまく取れないから、俺がやってあげました。
それしたげてる間、なぜか「悪いのは俺じゃなくてソレだからな!」みたいな顔して猫背気味に待ってる青峰っちがかわいいもんだからついニヤけてしまった。

「これもう食っていいのか」
「いいっスよ」
「おし」

いやちょっと待って青峰っち肉一度に何枚取ってんだよ多いよ。まあいいけど。たくさん買ったしそのぱんぱんほっぺなんかかわいいし。

「うめー。この肉うめェな」
「ちょっとフンパツしたっスからね! ほらほらたんとお食べっスよ青峰っち〜」
「んおー」

テレビをつけてくつくつ煮えるお鍋を挟んで二人でご飯。ああ、冬、年末って感じでいい。
今日はお昼に青峰っちが車出して、緑間っちと高尾っちを途中で拾って大型スーパーへ一緒に買い物へ行った。
あの二人付き合ってるとかでは全くないっぽいんだけど、緑間っちが桃っちの次くらいに料理の腕が壊滅的で、大学忙しい時に(緑間っち医学部だから大変そう)おしること野菜ジュースだけで一週間くらい過ごしてたのを見かねた高尾っちが「真ちゃんはバッタかカマキリなの? バカなの? 宮地センパイ風に言うならしにてーの?」って叱り飛ばしてご飯作ってあげるようになって、以降ちょっとした押しかけ女房みたくなってるらしい。
んで、その四人で散々あれこれ買い溜めて、せっかくだからってお蕎麦食べて良いお年をってお別れした。
黒子っちもこっちにいたら誘ったんだけど、残念ながら火神っちのためにアメリカに飛んで行っちゃった。
最初は火神っちが日本に来たがってて、でもシーズン中で年明けすぐ試合あるし当然無理で。
なら俺達がアメリカ行くか――って青峰っちも勿論シーズン中だから無理。
なのに、

『あークソ。火神とどっちが先に108回年越しダンク決められるか競争したかったのによー』

とか言ってんスよこのアホ峰っちは。通報されるよ。近所メーワクだよ。深夜に煩悩の数だけゴールにボール叩き込んで何のご利益があるっていうんだよ。
そうやって俺が呆れて止めたらなんと今度は「じゃあお前に108回ぶっこむかあ」だって。
……いや何を!? 何をブッ込まれちゃうんスか俺!
そもそもさ、そこで火神っちの名前出てくるとか地味にヒドくない?
そりゃあ青峰っちと火神っちは長年の好敵手っていうか、お互い認め合って励まし合って競い合ってる仲だからわからなくはないよ。二人ってちょっと俺と黒子っちみたいだもん。(黒子っちは「全然違うと思いますけど」って言うけどさ。そっスよね!? 俺間違ってないスよね!?)
けどなんでなんスかあ俺をまず誘えよ俺をーってバンバン机叩いたら、青峰っち黙って笑って俺の頭撫でるんス。
ホントいっつもそんなんばっか。そうすりゃ俺がコロッとダマされると思ってるんだ青峰っちは。
その通りだよちくしょう。
だって青峰っちだよ。
俺の大好きな青峰っちなんだよ。
青峰っちは、年が経つにつれてどんどんカッコ良くなってく。(欲目もあるかもしれないけど、人にもよく言われるから絶対ホントだ)。
そしてどんどん俺の青峰っちになってく。
ほんのちょこっとずつだけ青峰っちの中で俺のスペースが大きくなっていってるっていうか、俺の色に染まってってるっていうか……ああそうじゃないな。別に俺が変えてるとか俺で塗りつぶしてるわけじゃなくて。青峰っちはずっと青峰っちのまま、だけど、俺の部屋が少しずつ増築されて共有部分が増えてくような、不意に俺と繋がる瞬間があるような。そんな感じなんだ。
そういえば今日、緑間っちに「お前たち二人、笑い方が似て来たな」って言われた。
高尾っちは「それってフツー長年連れ添った夫婦に起こる現象じゃねーの!?」って大爆笑だったけど、すぐさま真顔になって頷いた。「でもそうかも」。
二人が言うには、出逢った時からすると俺と青峰っちはすごく変わって、そのくせ根っこはまるで変わらないらしい。
俺たちは顔を見合わせて笑ったっスよ。なんだそれ意味わかんねーって。
そしたら今度は緑間っちと高尾っちが顔見合わせて、

『この通りなのだよ』
『ホントだスッゲー』

とかめっちゃ笑顔なの。(あの緑間っちが! フッ……て感じだったけど! 素直に! 笑ってた!)
不思議。
今、目の前でおいしそうにご飯をほおばっている青峰っちは俺とは似ても似つかない。
なのにどこか懐かしくて、自分の欠片を眺めているような気持ちになる。

「なに笑ってんだよ」
「え? ハハ、青峰っちの食べっぷりにホレボレしてたんス」
「そんなことしてる暇あったら肉食え、肉」

青峰っちがお肉を束にして俺の取り皿に突っ込んでくる。だから多いってば! 嬉しいけどね!?
そんな風にやいやい言いながら食べていたら、お鍋はあっという間にカラになってしまった。







「黄瀬、もうちょっとで日付変わんぞ」
「ぅえ? うそもう?」

とんとん、と肩を叩かれて慌てて目を開くと、すぐそこに青峰っちの顔があった。
片付けも終え、青峰っちが淹れてくれたお茶を啜りながら二人並んでテレビ観てたはずだけど、どうやら俺はうとうとしちゃってたらしい。
青峰っち普段はわりと早寝なのに、なぜかこういう時はスゲー元気。
それにつられて即こっちもテンション上がる単純構造。

「さん・にー・いち、」

テレビの右上に表示されている数字がゼロにそろって、「あけましておめでとうございます」とアナウンサーの朗らかな声。
俺たちもとりあえず両手を振り上げてハイタッチ。

「うぃ〜アケオメ〜」
「うっすことよろっス!」

しっかしいざ二人並んで年を越すと、意外と何て言ったらいいかわかんないスね。
いまさら頭下げあう仲でも無し。
だけど、ふ、夫婦になって初めてだから、その、ちょっとだけこそばゆくて嬉しくて恥ずかしい。
青峰っちもおんなじだったみたいで、なんとなく首をひねったり鼻の頭をかいたりと落ち着かない様子だ。

「……初詣行くか」
「今からぁ!? 寒いし混んでるしヤダって昔言ってたの青峰っちじゃないスか!」
「それ高校ン時の話だろ!? ……ならもう――寝る、か?」
「…………ええと、や、え?」

うう神様だか仏様だかよくわかんないけど、寝るってどっちの寝るだろうって思っちゃう俺はだいぶ汚れてるんでしょうか。いつでもどこでも青峰っちに関しては始終ボンノーまみれでスマセンっス。
けど大丈夫っスよね? だって俺、青峰っちの嫁だもんね? むしろ嫁、旦那サマひと筋だから清いっスよね?
……清いとか、俺は一体何を言っているんスか。
青峰っちの目を見る。深い深い群青色の底に俺がいる。
俺の言葉を促すように軽く顎を上げて、ゆっくりと二度またたく。
そうすると魔法にかかったみたく俺の胸はきゅーってなって体がぽかぽかしてきて、思ったことを素直に口に出来る。

「じゃあじゃあ、2013年最初の青峰っち、俺に独り占めさせてくれる?」

青峰っちは一瞬きょとんとしたあとニヤッて笑って「もち」ってほっぺにキスをくれた。
いやもうなんなんだろう。今年もいきなり俺はバカだ。青峰っちに対して全力でバカ。
これが仕事ならむしろキメキメで言えてたんだろうけど、今の俺結構ギリギリ。
手汗ヒドイし口の中からっからだし、なんというかその……あそこらへん(察してほしい)がもう若干歩きづらいことになってて男としてどうなのかと思う。
手を引っ張られて寝室へ向かう間、俺は俯いた目線の先にある四角いお尻を片手でばしばし叩いた。

「ヤメテー黄瀬クンのチカンー」

見事な棒読みでそう言いながら青峰っちはくつくつ笑う。
俺がそうするのは恥ずかしいからだって知っているから。

「青峰っちのこと、いーっぱい触ってやるっス!」

上体は起こしたまま足を伸ばしてベッドに寝転んだ青峰っちの体をまたいで吠えかかると、まあ憎たらしいこと、青峰っちはどうぞと言わんばかりに両手を広げてみせた。
ならば突撃。俺は青峰っちの胸に飛び込んでがるがる言いつつ(青峰っちはくんくん言ってるっていうけど俺は認めないっスから!)キスしまくった。

「お前がシてくれんの?」

目を細めてそのキスを浴びてる青峰っちは、俺が左耳弱いのわかっててわざとそっちに囁いてくる。
それだけでホントどうにかなりそう。てかなる。
考えてもみてほしい。あの青峰っちのとてつもなく素晴らしい響きの低音が、いつもよりずっと甘くやさしく鼓膜を揺らして中へと入り込んでくる。
形のあるものみたいに、とろとろ、とろとろと、俺の耳を伝わって、心臓に流れ込んでくる。
次いで「なあ?」と念押しするみたく注がれた声に、服の下、俺の乳首ははしたないことにぴんとたってしまっていた。

「ん、そ、そースよ。言ったっしょ。独り占めする。青峰っちの、こと、頭のてっぺんから足の指の先っちょまでっ、ぜ〜んぶ俺が、いただいちゃうんスから」
「へェ、そりゃあ楽しみだ。どこまで頑張れるかなあ黄瀬クンは」
「さっ、最後までっス!」

更に言ってる端から腰をゆったりとさすられて、そのあったかさと心地良さにいつのまにか骨抜きにされそうになった俺はそこでハッと我に帰ると、青峰っちの肩口を叩いて押し返した。危ない危ない。

「も〜っ。青峰っちってば……」

油断も隙も無い。
お願いだからちょっと大人しくしててよっておでこ同士をくっつけて念じる。
そうして楽しげに咽喉を鳴らす青峰っちが羽織っている部屋着のパーカーを肩から落とし、その下のカットソーに手をつっこんで素肌をなでながら、ことさらゆっくり引き上げた。
うっすら立ちのぼる青峰っちの匂いに眩暈がする。口ン中が唾液でいっぱいになって腰がずくずく疼く。

「ん、んっ、」

見た目からは想像もつかないほどキメが細かい肌、かたく滑らかな腹筋の凹凸をてのひらに感じながら、俺は浮き出た首筋や鎖骨にちゅっちゅと幾度も吸い付いた。
青峰っち、色黒いから痕見えづらい。
ユニフォーム着るしその方がいいんだろうけど、俺としてはなんか悔しいものがある。
もっともっとちゃんと俺のものにしたい。
全部見たい。
見せてね、青峰っち。

「バンザイ、するっスよ」

黒いカットソーを頭とその長い腕から引っこ抜く間、青峰っちは寝惚けた子供みたいに「んー」とか「あー」とか唸っててそれがすっごく可愛い。
外やバスケットコートの中ではいっそ勇猛で気高い野性の獣みたいだなって思うのに、俺の前では爪をひっこめておなか見せてその身をこの手に委ねてくれる。
のっかってもなめてもかみついても、俺のことよしよしってして許してくれる。
幸せで仕方なくてそのまあるく綺麗な形のあたまをぎゅっと抱きしめると、くぐもった笑いを漏らしながら額をぐりぐり押し付けてきた。やっぱり可愛い。

「かわいいっス。青峰っち」
「あァ?」

ぼさぼさになった髪の毛を撫で付けてあげながらそのほんのわずかばかり上向き気味な鼻先にキスすると、不審げに睨まれる。

「――好き」
「……えっろいカオしやがって」

俺は黙って微笑ってうっすら汗ばむ浅黒い肌に舌を這わせた。
胸から脇腹、おへそのくぼみ。両の手指も添えながらそろそろとたどる。
どうして同じ生き物なのにこんな綺麗な体になんのかな。
俺と青峰っち、体格的にはそこまで差があるわけでもないのに。
しなやかで強い筋肉だけでもって編み上げられた肉体は、俺の奥ふかくで眠っている闘う心を揺さぶり起こしそうになる。
それと同時にどうしようもなく愛しくて誇らしくて嬉しくて。
この体で――この体があるから青峰っちは思うが侭バスケが出来る。
あの誰も真似できない、誰もが憧れてやまない、俺の大好きな青峰大輝のバスケを生み出すことが出来る。
奇跡だなって思う。
キセキの世代って誰が言い出したか知らないし、俺自身は言われるのそんな好きくないけども。
それでもこのひとは奇跡だなって思うよ。

「黄瀬」

一度身を起こし、惜しげも無く晒されたその体躯を改めてまじまじと眺めつつうっとりしてた俺を青峰っちが呼ぶ。
自然とその口元に引き寄せられて、キスする。
ダメだなあ俺。ともすると青峰っちのことでアタマいっぱいになって手が止まっちゃう。
これはもう本格的に卒論のテーマを青峰っちにするしかないのでは無いだろうか。いかに青峰っちがすごくてカッコ良くてバスケうまくてザリガニ捕るのうまくてすごくてすごくて……とにかくいかにすごいかを一度でいいから全世界へ向けて大々的に発信するべきなんじゃないだろうか。
だがしかし考えてる端から自分がいかにボキャ貧か思い知ったっスかなしい。
赤司っちに「お前と青峰が感動すると『スゲー』と『ヤバい』しか言わなくなってこっちまで馬鹿になった気分に陥るな」とある種感嘆の面持ちで言われた中学時代あるある。

「もう限界か?」
「ちがうっス。まだまだっ、ぁ、っふ――!」

と、大きなてのひらがセーターをくぐって触れてくる。
びりびりと電気が走ったような感覚に思わず背が反って、俺は先ほどから臀部で存在を主張していた青峰っちの熱い塊に谷間の奥をこすりつけてしまった。

「ッ……や……ぅうっ……ぁお、みねっ、ち……」

ちょっとでもそこらへんに触れられたら俺ガマンきかなくなるのにヒドイ。
恨みがましく見上げた先には愉しそうな青峰っち。
まだからかうような風ではあるものの、その双眸はさっきよりだいぶ鋭さが増して見えた。

「そろそろ触りてーんだけど」
「まだ俺、なんもしてねっスよ!」
「してんだろーがさっきから。焦れったいッたらありゃしねえ」
「えーっ」

俺いっつもなにがなんやらわからないうちにぐちゃぐちゃになっちゃうから、たまにはゆっくりじっくり青峰っちを堪能させて欲しいのに。
そんで気持ち良くなって欲しいのに。

「あとから辛くなっても知んねーぞ」
「わかってるっスよ……でももうちょいだけ。ね?」

青峰っちの右手に指を絡め持ち上げながら、そうおねだり。「しょーがねーな」ってオッケーありがとう。
舌を差し伸べて二の腕から肘、手首を通り、皮膚の硬くなった長い指を舐める。
俺が好きな青峰っちの躰の中でも、一等好きなところ。
大きなボールをじゃれついてくる犬みたいに従わせてしまう手。
いつも俺を撫でて包んでくれる手。
大切な。
大事な。
大好きな。
その青峰っちの手を、他の部分よりほんのり白い水かきも太い関節も厚い爪もぜんぶぜんぶ、余すところなく唾液でべたべたにする。
そうしながら俺の様子を凝視している青峰っちのくちびるに右の人さし指と中指を押し当てると、青峰っちも同じようにそれを口に含んでくれる。
熱い舌が生き物みたいに絡んでくる感触にゾクゾクして肩が竦んだ。クる。今日はまだあんまり青峰っちに触ってもらってないから余計に。
一通り濡れたなって思ったら引き抜いて、俺は迷うことなく青峰っちの体液で濡れたその指を下着の中へと突っ込んだ。
「おい」って青峰っちの声がしたけど、聞こえないフリ。

「ん、ぁむ、……ぅっん、ぁ、あっ、」

青峰っちの指にしゃぶりついたまま、自分のお尻をいじる。
手を後ろに回してなので少し難しい。
慎重に探る。
さすがに歯を立ててしまってはいけないから、名残惜しいけど指から口を離してそこに集中する。
窄まりに触れた瞬間、息を呑む。

「――は、」

よかったー意外とすんなり入った。
お風呂で洗うの習慣になっちゃってるからうんまあ、別に驚くほどのことでは無いんだけど、一応たんびにキンチョーするんだよねこれ。
自分のでも青峰っちのでも、最初の怖さや違和感みたいなのは拭えない。
きっと俺が男である限り、それはずっとそのままだろう。

「アっ! ぁ、ああ……」

加減がわからず不意に深くえぐってしまって腰が跳ねる。
だんだん余裕無くなってきてきつく目をつむろうとすると、急に抱き寄せられて青峰っちの胸へ倒れ込む形になった。

「っ!? あ、んあっ、あ、あお、みねっち、っ……!」
「あー。ったくなんなのお前」
「あっあっ、や、ゆび、きゅ、に、っ、」

自分の二本に加えて青峰っちのが二本。結構きっつい。
なのに俺の体は待ってましたといわんばかりに火照ってうねって悦んでる。
さっきまでのじりじりした恐怖なんて、一瞬で霧散してどっか行っちゃう。
やっぱそうなんだ。青峰っちなら俺はいい。青峰っちだからだいじょぶ。
そう思うとふっと力が抜けて、安心する。いっぱい恥ずかしい声が出る。

「あぅう、あおみねっち、そこ、っ、ふぁ、」

入り口のあたりをこじるみたいにして中で指先を曲げられて、親指で外のふちのとこをぎゅっと押してつまむみたいにされる。腰が浮く。急激に色んなところが追いつめられて、もっとって泣いて懇願しそうになる。

「好きだろ、ここ」

俺は返事のかわりにスプーンでくりぬいたみたいに綺麗にくぼんだ鎖骨の影へと鼻先を押し付けた。
青峰っちのにおいが濃くなってる。合わさった胸の下では遠くからでも伝わってくるドリブルの振動みたいに心臓が脈打つ気配がしていて、その力強さに貫かれ煽られて視界が滲んだ。
そろそろいい加減無理っぽい。くっそぉ。フェラもしたかったのに俺ってばマジ情けねっス。
それでもなんとか、だいぶ足腰プルプルしながらも青峰っちのスウェットパンツと下着を引きずりおろす。そん時に腰ちょっとあげて協力してくれる青峰っちがどこか労わるみたいにやさしく髪を梳いてくれるもんだから、そこでも俺のパンツは濡れた。どうせもう脱ぐんだけどさ。これ以上俺の色んなところの元栓をぶっ壊してまわるのやめて欲しい。
ローションをお互いの必要なところに塗りこめながら、何度も何度もキスする。
だんだんと二人の息が上がってく。
言葉を紡ぐ余裕も、今は無い。
とにかく早く繋がりたくて、俺は青峰っちに跨ったまんまの体勢で腰を下ろした。

「ひぅ――ッ、ぐ、――は、はぅ、ンンン――」

おなかの奥に灼熱の杭を突きこまれてるみたいだ。
痛みはそんなに無いものの、内臓を押し上げられ割り拓かれる圧迫感に上体が仰け反り咽喉の奥から悲鳴じみた声が漏れる。
下半身は反射的に逃げようとする力と、一気に貫かれたい欲望に引き千切られそうになってぶるぶる震えだす。

「っ、キツイ、か?」
「――ちが、」

こわばって不随意に跳ねる俺の脚を青峰っちの手がやさしくさすってくれて、涙が出るほど心地良い。
きついわけがない。
青峰っちが傍にいる。それだけでどれほど俺が満たされてるか、アンタ知ってる?
でも俺欲張りだから、もっと近くにいきたい。
もっともっと青峰っちを俺のものにしたい。
俺を青峰っちのものにしてほしい。
青峰っちが知らない青峰っちも、青峰っちがいつか忘れちゃう青峰っちも、ぜんぶ刻み込んで覚えておきたいから。

「気持ちいい?」
「ん、うん、うんっ、あおみ、ねっち、いい、きもち、ぁ、あ、っん、きもちい、っす、ぅうっ、」

青峰っちに見つめられながらそう言葉にした途端、凄まじい快感が全身を駆け抜けた。







イったな。
と思ったけどあーあ。案の定ひとりで頑張りすぎたせいで精液がちゃんと出てない。
黄瀬は俺にちゃんと触られた後でないとうまく射精できない。
や、自分で扱けば普通には出るはずだ。
だから別にオナニーができないとか男として不能気味とかそういうんじゃない。
ただセックス中は気持ちと体、両方そろってないとダメっていうか。
俺に愛されてるって実感した上じゃないとダメだとか多分そういう。
要するにアレだ。俺じゃないとこいつをちゃんとイかせられない。
俺がそうした。

「ふっ、う、ぅうぁ、あお、みねっ、ちぃい、っ、おれ、おれっ、いって、るっ、いって、るの、っ、にぃっ……!」

大粒の涙をぽろぽろ零しながら黄瀬は途方に暮れたような眼差しで俺を見てくる。
口なんかまったく閉じられないようで、快楽の波に耐えるように体を竦ませ俯いた拍子に桃色の舌先から銀の糸が垂れ落ちる。
後ろ手をついてちっせえガキがションベンするみたいな恰好で脚をM字に開いてるモンだから、先走りに濡れそぼって苦しげに震えてる性器も、俺のチンコに押し広げられてしゃくりあげるように開閉を繰り返してる尻の孔も丸見えだ。
ヤバすぎだろ。

「わーってる。ちゃんとイこうな」

俺も相当余裕が無くなってきているが、まずはこいつを何とかしてやらないと。
最早まともに声も出せず、ひっ、ひ、と小さく切ない吐息をつむぐ黄瀬を、出来る限りそっと押し倒す。
上、着たまんまだけど、今は脱がせてる場合じゃない。
届く範囲にありったけくちづけながら、硬直してしまった体をなだめるようにさする。
背も腹も足も。俺の温度を沁みこませる。
そうしてから張りつめた陰嚢をやわやわ揉んで、竿ンとこを下から搾り出すようにして扱いてやれば、ようやく少しずつながら射精が始まる。

「――っく、ぁ、あああ、っあ、ぅああああああ」

涙のせいで一層甘く鼻にかかった声が細く長く尾を引いて、俺のペニスはそれに蹴ったくられるようにしてデカくなる。
耐え切れず大きく一度動かすと、黄瀬は激しく頭を打ち振って俺の腰にぎゅっと両脚を絡めてきた。
これどっちだ。ヤなのか来いなのかどっちなんだ。
俺はわりとどんな時だろうと構わず行為を続行しちまうことが多い。
けど一回だけあんまりにもひどく泣きじゃくるもんだから、さすがに心配になって「お前アレほんと平気なの?」と当の本人に聞いたことがある。結構前の話な。
黄瀬は蚊の鳴くような声で「だいじょぶっス気にしなくていっス」だなんて答えた。耳まで赤くして唇震わせてさ。
変なところで気を遣って無駄に我慢しまくるのはいつものことだから、俺は「本当に本当に平気なんだな? 大丈夫なんだな? お前ヤじゃないんだな?」と食い下がった。
そしたらこいつ――

『うるせー幸せすぎてなんかもー気持ち良いんだか辛いんだかわかんねェくらいブッ飛んでんだよ青峰っちにされてヤなことなんてあるわけないだろバカ言わせんな恥ずかしい!』

ツンだかデレだかわからん具合でキレた。いつも通りかわいかった。
うん。
なんつったって俺の嫁だからな。
かわいいだろそりゃ。
今だって俺に取りすがって俺の名前呼んでひんひん泣きながらスキって言ってる。
あれ。で、なんだったっけか。悪ィもう腰動いてら。
セーターまくりあげて心細そうに勃ちきってた乳首を吸って噛んで引っ張ると、黄瀬はまたちょっと精液を漏らした。
追い立てるようにして深く腰を突き入れながら、脂肪は必要最低限、モデルにしては幾分かしっかりとした筋肉に覆われた真っ白な胸から腹をするすると撫でおろす。
忙しない呼吸のたびに肋骨がせり上がって薄い陰影を作り出しているそこは汗みずくで、俺のてのひらに吸い付いてくるようだった。
中も。やわらかくなってる。俺が触れるたびに握り返してくる手とおんなじようにきゅって締め上げんの。

「黄瀬、」
「ぁ、あおみねっち、さわって、いっぱい、――あ、え? あ、」

ごめんイッた。
黄瀬は突然のことに腰をびくつかせながら目を見開き、困惑したように俺を見上げて「あおみねっち、でてる」となぜか素直に報告した。
うんそうな。出てるな。出してっからな。
仕方ねーだろ今日はまだ一度も抜いてない状態でここまで来たんだから。むしろさっきまでよく耐えただろうが俺。
自分自身じゃわかんねぇんだろうが、こいつが俺のこといじってる時の顔とか色気ってマジとんでもねーんだぞ!?
アホみたいだけど、眺めてるだけで俺って愛されてるんだなって思えるくらい。
なにが楽しいんだか、その綺麗な手で俺のこのごつい身体をこわれ物みたいにやさしく触って撫でて、一生懸命舐めて、キスして、時には想いが溢れたみたいに涙をこぼしてるのに、気づきもせずふんにゃり笑う。
普段のカッコつけでスッとしててお調子者でぎゃあぎゃあやかましい黄瀬からは想像もつかない顔。
そんなん見て冷静でいられるかってんだ。

「あおみねっちぃ」

最後の音を少しばかり伸ばした響きはねだるというよりも甘えてるのと嬉しさのあまり涙腺が崩壊する寸前みたいな調子で、胸のどこかが引き絞られるみたいに痛む。
お前ってどうしてそうなんだよ。
なんでそうも無防備になっちまうかな。
俺だからか。
やっぱ、俺だからなのか。

「かはっ。まだ足りねー、だろ?」

渦巻く下っ腹の熱。
伸びてきたてのひらに鼻先を押し付けてべろりと舐める。それだけで黄瀬は啼く。
全身がほんのり紅く上気して粟立ってるし、内側もヒクヒクしっぱなしだしすぐにまた極まりそうだ。
繋がったまんまその腰の下にタオルケットや俺の服を挟んで高くして、脚をめいっぱい開かせた。
俺も相当柔軟には自信あるけど黄瀬もかなりのモンだ。ちっとばかり苦しそうではあるものの、なんとかなってる。
それよりも浅いトコをゆるゆる刺激されるのに感じてるようで、とろんとした目で俺の姿を追いながら赤ん坊がむずかるみたいに眉根を寄せてぐすぐす鼻を鳴らしてて。
その上、時たま堪え切れないみたいに喘いで腰回すもんだから、もう遠慮しねーからなって気分になる。
ガチでセックスする時って、限りなくバスケしてる時に近い。
昂って抑えきれない本能を、瞬間瞬間、一点にありったけぶつけるあの感じ。
深呼吸。
繋がったとこがドクドクしてんのがわかる。
黄瀬の腰をぐっと掴んで、いくぞって合図するみたいに二三度揺する。
幾らか焦点を失いかけていた瞳が、俺を捉えて、認識した。
「あおみねっち、」かすれた声は微かな怯えとそれを上回る期待に濡れていて、思わずキスしちまう。

「黄瀬」

今の俺に出来る限り、ありったけの慈しみを籠めてそう呼んで、俺は容赦なく動き出した。
当たり前だが、黄瀬の体のどこがイイなんざ知りつくしてる。
それを片っ端から触って舐めて噛みつきながら、最奥を穿つ。

「あ、あ、あううくっ、ア、うぁあああ」

黄瀬は泣くなんてもんじゃない。泣き叫ぶ。
ろれつの回らなくなった舌であおみねっちあおみねっちと涕泣する。イッてると嗚咽する。
誰もが賞賛する美しい肢体がなにがなんだかわからないような体液や粘液にまみれ、俺の下でのたうって跳ねて悶える。
ぐっちゃぐちゃだ。
あーでも。キレーだなあ。

「ぃあ、やめてもムリいやいやああああそこヤだめっすおねがいあおみねっちぃいい――!」
「黄瀬。いい子だから、もちっとな」
「はぅううっ! んっ、くは、は、ひっ!」

一際大きな波が来たのか、俺を包むあたたかな内臓が細かく震えた。
黄瀬の両脚の指先がぎゅっと丸まったあと、宙で爪先立ちするみたいにぴんと伸びる。

「あああうあ、ア、く、ぅ、あおみね、ち、や、ぁあああ、あっ、あ、っ――!」

がくがく痙攣する黄瀬を抱きしめて、これ以上ねえってくらい深く突き入れて、爪を立てるみたいにして時間をかけて引き出す。それを繰り返す。
口を塞いで、手を握って、目を見て、名を呼んで。
黄瀬の中を隅から隅まで俺で満たしたくて、一片残らず奪いたくて、何度も何度も繰り返す。
俺しか考えられなくなるように。
俺をずっと覚えてるように。
なんてヒデェことしてんだろなって、思うことあるんだ。
きっと黄瀬は未だに俺を後戻りできない道に引きずり込んだんじゃないかってどっかで後ろめたく思ってる。
本人は否定するけど、ちょいちょいそんな気がすることがある。
だけど考えてもみろよ。俺はこいつの心を占領して好き放題した。
こいつの体を作り変えた。色んなとこを俺じゃないと駄目にした。俺だけのものにした。
しかもタチの悪いことに俺はそれを幸せに感じてる。満足してる。
それってどーよ。フツーじゃない。
黄瀬が俺の人生おかしくしたって言うんなら、俺だって黄瀬の人生狂わせたとんでもねえ奴だろ。
でもヒデェなとかかわいそうだなって思うことはあっても、ちっとも悪いとは思わない。後悔したことはない。
そもそもどっちが悪いとかどっちが勝ったとか負けたとか、そういう問題じゃねえ。
そんなんじゃなくて。
好きなら、愛してんなら、そういうのひっくるめて、いいんだって、大丈夫なんだって、それ含めたなにもかも持ってくって決めて俺はお前と一緒になったんだって。
そういうの教えてやりたい。
俺は気持ち伝えるの超絶ヘタみてェだからしょっちゅう失敗するけど。
黄瀬もバカだから何度言っても肝心なことはすぐ忘れて疑って不安がるし。
だからそのつどキスしてハグしてセックスして。
好きだって言う。
それしかねーよ。
俺にはそれしか。







「黄瀬」
「……なんすか?」

しばしのまどろみから覚めたばかりにも関わらず、黄瀬は真っ直ぐ清んだ眼差しで俺を見ている。
かなり無茶したから起きたら何言われっかなって思ってたけど、俺がこの短時間で四苦八苦しながら黄瀬の体を綺麗にして着替えさせ、シーツを換え掃除をした努力が少なからず実を結んだのか、黄瀬が俺を叱ることは無かった。
むしろ俺の頬を撫ぜて笑ってた。

「今年も愛してるぜ」
「…………うん」

琥珀色の瞳が潤んで細まる。
臆面もなく愛の言葉を吐けるようになったのなんて、つい最近のことだ。
今だって照れが無いわけではないし、らしくないと言われればそうだろう。
けどこうして嬉しそうにする黄瀬を見るたび、言えるようになって良かったって思う。

「俺も愛してるっス。今年も、来年も、再来年も、ずーっとずーっと」

祈るみたいな声だ。
お前は俺のこと変えられないって、俺は俺のまんまでいいとかまたそういう変に引いたこと思ってんのかもしんねーけど、周りの奴らに言わせりゃお前が俺に世紀の大革命を起こしたんだぞ。そのうち歴史年表に黄瀬騒動だか黄瀬の乱だかって載るぞマジで。テストに出るからな。
俺は俺だけど、俺の中にちゃんとお前はいる。
お前が思ってるよりずっと、俺の中のお前のスペースはデカいんだよ。気付けよ。
薄い闇の中でも淡く輝く金色の頭を撫でる。
もう何度こうしただろう。俺、お前の頭の形覚えちまったぞ。
好きなミネラルウォーターの銘柄も。考えごとする時にピアスいじるクセも。どこの店のオニオングラタンスープが好きかも。服に隠れてるトコのほくろの位置も。
ぜんぶ覚えちまったじゃねーか。

「ねえ青峰っち」
「おう」
「俺、青峰っちとだったら、変わってくのも怖くねーよ」

そう言って笑う顔は中学時代となんも変わらない、なのに俺とよく似た笑顔だった。



20130118 Remember me.