はじまりのうた


もっとめちゃくちゃにしていいよ、っていうかしろよ。してくれ。
花村は鼻のあたまを真っ赤にしてそう言った。
そこそこ鍛えてはいても特別に精錬されてるわけでは無い体は、抱くとやっぱりどこか頼りなかった。

「どうしよ・・・俺おかしくなる。きっとスゲェ変な顔してる。」
「そんなことない。」
「見ンなよ。」
「やだ。もっと見たい。」
「っふぁ!?」

背と腰に腕を回して引き起こす。熱い粘膜がぴったり俺を包む。
水底に引きずり込まれているみたいに天を仰いで喘ぐのをなんとかなだめて、ゆっくり何度もキスを落とす。

「っハ、あ、アっ・・・く、な、なあっ月森・・・っ、気持ち、いい?」
「ん・・・すっごく。」
「ホント、かよ?気持ち悪くない?イヤじゃない?」

何となくしてもいいよって雰囲気にしたのは花村で、押し倒したのは俺だ。最終的には俺が決めた。触れたいと思ったから花村に触れた。
なのに彼は何度も聞く。
本当にいいの?俺で大丈夫?俺で平気?やったあと嫌いになんない?
そうしておいて、あ、俺ウザいよな、ごめんな、なんて謝る。
きっととても痛いんだろう。無い知識を総動員して念入りにほぐしたけど、それでも花村は脚をばたつかせて声を上げて泣くのを必死にこらえてた。
その琥珀色の瞳が涙に濡れてきらきら光るのがあんまりにも綺麗だから、なぜだかこっちまで泣きそうになった。

「いぁ・・・これっ、深いっ・・・、」

薄い胸が忙しなく動き、その下の肋骨が皮膚を押し上げ波打っている。
鎖骨のあたりから下腹まで、ミルクを注いだみたいに色が白くて透ってて、水泳の時や着替えの時に散々見てたはずなのにまるで知らないものに見えた。

「んっ、な、なに?月森・・・」

俺が何かを確かめるみたいに何度も胸から腹にてのひらを滑らせていると、花村は困り顔でこっちを覗き込んできた。

「色、白い。」
「白くねえよ。焼けてんだろ!」
「顔とか腕は、まあな。でもここらへんは真っ白だ。」
「ン!ぁ、あんま、さ、さわると・・・」
「さわると?」
「ガマン、できねえっ・・・!」
「しなくていいってのに。」

まだ動いてはいない。ただ入れて、抱き合ってるだけだ。
なのに花村の性器はまたはち切れそうになってる。

「うごいて・・・いいよっ・・・」

なんでそんな切実な声で言うんだろう。

「月森のしたいようにしろよ。俺のこと好きなように、いいように使って、」
「ちょっと、さ。そういうこと言われるとムラムラするから。」
「うぇ?え、あ、っ!?」

中で膨らんだのがわかったんだろう。腰がびくびく跳ねる。

「俺は二人で気持ちよくなりたいんだって。」
「ひゃ、あ、ああ、あ、」

青白い闇に包まれた部屋の中でも花村の目ははっきり見えた。寂しそうな光を灯した、途方に暮れた瞳の色。
掬ってキスしたくなる。

「花村も気持ちよくなって欲しいんだけどな。じゃないと俺の立場が無い。」
「そっ、ンなの、月森が、ぁ、ン―っ!」
「花村が幸せで気持ちよくてめちゃくちゃになるのが見たい。」
「もぉ、なっ、てるっ!」
「うんでも、まあこれから、」

ゆっくり段々にな、と言うと、花村はまたしてくれんの?と実に不思議な言葉を口にした。
俺はたまらなくなってその体をつよく抱き締めた。


END 20080927