うつぶせにおさえつけられたばねのような躯は、時折こまかく痙攣している。
背中に浮いた汗が灯りに照らされてうっすらと光の膜を作っていた。

「は、ァう、・・・っふぁ!」

屈辱的な体勢には未だに慣れない。瞳が自然と羞恥と快感によって濡れるのがわかってそれがまたいたたまれない。自分の胎の中を探る指のかたちさえもう覚えてしまいそうだった。幼い頃から憧れていた大きな手と長く太い指、いつか俺も小十郎のようになるのだと言ってはいたけれど、この歳になっても未だ追い越すことはできない。もしかしたら一生できないかもしれない。
お互いがお互いの成長を間近で見てきた。
ある日小十郎の声ががさがさした響きになっていて、政宗はこじゅうろう、風邪をひいたか、ときいた。小十郎はいいえと笑った。いずれ梵天丸様もこのようになられるのですよ。しばらくしてその声は前よりずっと低く通るようになった。それからすらりと背が高く、どちらかというと最初は細い印象を受けたはずの体躯はいつの間にか幅も厚さも加わっていて、政宗はまるで父上のようだと驚いた。どうしてだ小十郎、小十郎ばかりでずるい、そう言って小十郎を困らせた。
ぐちぐちと湿った音が部屋を這い回り、政宗の耳をあつくさせる。もういい、はやく、微かな声で呟けば両腕を掴んで引き起こされ、そのまま胡座した小十郎の上に背を向けたままの格好で導かれた。尻の狭間に滾った男根があたって反射的に身がすくむ。生娘でもあるまいし、政宗はまた恥ずかしさに歯を食いしばった。だって小十郎はきっと薄く笑っているだろう。顔を見ずとも気配でわかる。せめてとばかりに四肢をばたつかせて逃れようとしてみたが、腰に腕を回されて余計に密着する羽目になった。背中に小十郎の腹と胸が触れる。

「政宗様。」
「・・・っ!」

そのまま名を呼ばれた。
政宗の肢体はそれまでのどんな時よりも大きく振れたように見えた。

「政宗様。」
「っ名を、よぶ、なっ、」
「なぜですか。」

その声が耳元に吹き落ちるたび、彼の腹の微細な震えが政宗の背を伝わって全身に渡る。皮膚も骨も、血管のほそいところの一本一本までをびりりと震わせて溶かすような声が政宗は好きで堪らなくて、だからこそ嫌だった。
いつからこんな風になってしまったのかわからない。

「どうしても、だ!」

小十郎は再び、だが今度は咽喉の奥でくっと笑った。どこか凶暴な音を含んだそれにさえ背筋がざわめいて、政宗は身体を丸めるようにして我慢する他なかった。

「んん!ア、こ、こじゅう、ろっ!」

不意に政宗の前へと手が伸びる。膝を摺り寄せ隠すようにしていたそこは先走りですっかりぬめりを帯びていて、触れられれば過敏に反応する。開きかけた先の小さな穴を爪でこじってやると甘い悲鳴が鼻から抜けた。

「ばっ、やめ、さわんなっ・・・!」
「やれやれ、やめろばかりだな、政宗様?」
「あ、あ、ぅう、」

主に対する言葉遣いを一瞬だけ捨て、唸るように言われたそれが政宗を更に打ちのめす。
最早抗う術は欠片も残っていない。与えられるもの全てが理性を叩き壊し快楽の淵へと引きずり込む。やさしく焦れったい愛撫に意識が遠のく。息がうまく継げずに仰のいて口を開けば残った呼気すらも奪われる。どこまで貪欲なのだろう、この男は、そう思いかけて政宗の顔が人知れず歪んだ。

「っと、」
「何でしょうか。」
「もっと・・・っ、」

飢えているのは自分もだ。貪りたいのは自分もだ。
本当に、いつからこんな風になってしまったのだろう。無様で、格好悪い。こんな風に。

「―政宗様!」

息が止まるほど強く掻き抱かれ、名を呼ばれた。
政宗は声を上げることさえ忘れて身をわななかせ、達した。

いつからというのは結局のところ定かでない。彼の声が変わったあの時かもしれない。はっきりしているのはどうしてかということだ。呼ばれるだけでどうしてこんなに苦しくて嬉しいのだろうということだ。何度だって飽きずに呼んで欲しい。どんな雑踏の中だろうと戦場の中だろうと、聞き落とすことはない。 自分を縛りつけ目覚めさせる呼び声を、求めるのは好きだからだ。
馬鹿馬鹿しいほどに好きだ。只、それだけだ。


END 20060810