幸村&政宗(学生)

実家から送ってきただだちゃ豆をゆでてダイニングテーブルの上に置くと、呼んでもいないのに幸村が椅子に座って目をきらきらさせ出した。不思議なことに食い意地のはった彼であるにも関わらず、いつも政宗が座るまでちゃんと待てと言われた犬のようにじっと待っている。いわく「ご飯はみんなで食べなければおいしくありませぬ!」だそうで、それは確かにそうだと政宗も思う。が、作る側としては一番美味い時に食べてほしいわけで、そこらへんが複雑だ。その点今はいい。夕暮れ時の長閑なひと時。テレビから流れる流行のポップスに体を揺らしながら(きっと知りはしない曲だ。幸村はついこの間までレンタルショップの存在さえ知らなかった)はくはくと豆を食べる。幸村は麦茶、政宗はお気に入りの日本酒をほんの少し。二人は無言。小さな咀嚼音と音楽だけが室内を漂う。
「この豆は見た目は枝豆と同じなのに味が全然違いますなあ!」
「たりめーだ。味の濃さもコクも全然違う!」
かために塩茹でして最後にまた少しとっときの藻塩をふった豆はあっというまに殻だけとなった。
「最後の食えよ。」
「いいでござる。政宗殿が食べるでござる。」
この時代錯誤甚だしい口調にもとっくに慣れた。
「ばっかオメー、なんのために頼んで送ってもらったと思ってんだ。」
「??なんのためだったのですか??」
お前のためだよ!
と言えるわけもなく、それはほらアレだ、なんかそういうアレがあったんだよ、と政宗にしてはひどく歯切れの悪い言葉が唇から絡まり出た。(豆のにおいとともに)
「では一粒ずつで!」
ちょうど二つはいっているから、と幸村は言って、政宗に手を出すように促した。ぺん、と一粒はじき出して、自分もてのひらに一粒のっける。せーのとも言ってないのに同時に食べると、幸村はさも幸せそうに笑った。政宗はそれを見てああばかだなあと思ったけれども、あまりにも幸せでたまにはこういうばかもいいかとも思った。また実家からこの豆送ってもらわないと。今度はダンボールいっぱいに。


060815











幸村&政宗

縁側でいびきをかいて寝ている幸村の腹は相変わらず豪快にOPENでWELCOMEな感じである。いっつもこれだから実はたまに寝冷えする。見事に割れた腹筋が呼吸の度に浅く上下しているのに見惚れている場合ではなく、政宗は部屋の隅にあった薄手の羽織をかけてやった。しばらくすると幸村はものすごいいきおいでそれをはねとばす。またかける。うざったそうにはねのける。またかける。今度は布相手に技でもかけるかのように全力で捻り投げ飛ばした。政宗はこいつ実は起きてんじゃねえのムカつく!と思った。これでも心配しているというのになんだこの仕打ちは。その羽織はお気に入りなんだぞ馬鹿野郎!とも思った。それなのに幸村は幸せそうな顔で寝こけている。とろける陽射しの中で大の字になって。あまりにも一人で勝手に幸せそうなので政宗は余計にむかむかしてきてその腹の上に乗った。ふぐっと声がしたがそれでも幸村は起きない。脇腹をぼりぼりかいてから(おっさんくさい動きだった)政宗の着物を掴んだ。ああ俺これで投げ飛ばされたらCRAZY STORM(ボタン連打ラッシュ)かますぜ、政宗が悲痛な様子で眉根を寄せた瞬間に、引きずりあげられて胸元に抱きしめられた。やっぱりお前起きてんだろと思ったけれど、肺が幸村のにおいでいっぱいになってもうわけがわからなくなってしまった。


060816











佐助×政宗

奥州の竜と甲斐の虎、それに越後の軍神が同盟を結んで以来、真田忍隊の長は実に素晴らしいパシられ働きぶりを披露していた。
今日も今日とて奥州の―ピンポイント的に言えば奥州筆頭独眼竜のねぐらの前の庭に舞い降りた猿飛佐助は、その筆頭様の目が異様に輝いているのに驚いて軽くいち・にの・さん、というかおや・かた・さむわぁーっ!くらいの間固まった。
「それ、俺も乗れるか。」
はあ?と佐助は無防備な声を上げた。それとはどれかというと、既に上空へ舞い上がってしまっているが佐助が使役している大鴉のことである。とは言っても飛ぶためのものでは無く、一時的に高いところを越えたり、囲みを抜けるために使うものだ。しかも術でいじってあるから純粋な生き物じゃない。だが政宗にとってはとても好奇心をそそられるものだったらしい。乗れるか、ともう一度きいてきた。その様子があんまりにも幼いものだから、佐助のオカン本能が刺激されてしまい、うん、まあ、乗れないこともないね、たぶん、などと言ってしまった。政宗はとても、とても嬉しそうに笑った。佐助はそれにぼんやり見惚れて胸の甘いいたみを分類し損ねた。くすぐられたのは親心じゃない、恋心だった。気づいた頃にはもう全部が遅かったが。


060820











食欲さえ、わきおこる。(幸村&政宗)

幸村が政宗の頬に唇でかぶりついた。が、どちらかというと削げた頬となめらかな皮膚はするりとすべって捉えることはできない。なにやってんだ…と半ば呆れて政宗は幸村を見上げた。なんだかおいしそうだったので、と幸村は子供のようにはにかんで言った。
「いひゃい!」
仕返しに幸村の頬を思い切りひっぱってやる。思いの他、伸びた。そのままふにふにといじっていると政宗殿、と困り声。
「ぎゅうひの菓子が食いたくなった。」
「おおお…!良いですなあ!某、大好きでござる!」
「つーかお前は甘いものならなんでもいいんだろうがよ。」
「そ、そんなことは…はわっ!」
政宗は更にその伸ばした頬に食いついた。歯で甘噛みすると塩の味がして、それに妙に興奮した。
「終わってからな。」
「え、あ、う、は、はい…!」
顔を紅潮させ、うろたえながらも幸村は政宗を抱きしめて口を開いた。気のせいか、いただきますという声がした。


060811











幸村&政宗&元親

「おおお!海!海ですぞ政宗殿ー!」
幸村は具足と草鞋を脱ぎ捨てて子供のように(考えたら…実際まだ子供なのだ)海辺を走り出した。途中あつい!あつい!と日の光で焼けた砂にひいひい言いながら飛び跳ねる姿に元親が大笑いする。
「やっぱこっちの方の海の色って違うんだな。」
「綺麗だろ?」
北の海はどちからというと、特にこの時期は青、黒、藍といった暗く青みのつよい色だ。だが南の海は碧、白、翠のような明るく緑がかった色をしている。
「おーっし俺も泳ご!近頃ガラにも無く机に向かってばっかで体なまっちまってんだよ!」
政宗はそれを聞いて少し前までは部屋に引きこもってばかりだったくせに、と思った。が、まあいい。今の元親には太陽が良く似合う。(にしてもなんであんなに色白なんだろうかよくわからない)
「オメーも来いよ!」
「まさむねどのお〜!変な魚がおりまする〜!見てくだされ〜!」
「ゴラーッ!真田!海の中で槍を振り回すな!釣りがしたいなら磯でしろっ!」
…わからないといえばこの光景もわからない。自分達はつい先日まで敵同士で会えば刃を交えていたはずだ。
「おい!伊達!」
「…Ah?気持ち悪ィ呼び方すんな。」
「は?」
元親の濡れた銀髪が美しいと思った。幸村の無邪気な様子を可愛らしくも思う。
「俺もヤキがまわったぜ。」
政宗は邪魔なものを脱ぎ捨てて波打ち際に歩み寄る。

「政宗でいい。」

青春ごっこを今更ながらに始めてみようじゃないか。何事も、楽しんでこそ人生だ。


060826