佐助&政宗(SFのようなホラーのような現代)

瞼の裏にノイズが走って政宗は体をびくりと強張らせた。これは予兆だ。見てはいけない。視てはいけない。だが本人の意思にも関わらず、視力を失った網膜に其れは直接流れ込んでくる。
「やめろ…、」
隣に座っていた佐助がどうしたの、と言ったのが聞こえた。同時に口汚く罵る声、お前なんか死ね、お前のせいで俺は、死ね、死ね、死んでしまえ!そして咽喉元に熱い感触。そのまま万力のような力で締め上げられる。体が宙に浮いたようだった。
「あっ、が、」
佐助の声と誰かの声が交錯して、頭の中がわんわんする。くるしい。血の巡りが、やめてくれ、みたくない、やめてくれ、殺さないで。首をかきむしりながら叫んだ。(かどうかはあやしい。”どちらが自分の声か”わからなかったからだ。)
その瞬間憎悪で真っ赤に、いや真っ黒に染まった視線とかちあった。

「わああああああああああああああああ!!!!!」

「旦那!!!」
肩を強い力で揺さぶられ、瞬間我に返った。
「また、…なの?」
顔面を蒼白にして脂汗を滲ませている政宗の背をを抱きしめてさすりながら佐助が問う。ちいさく頷く気配がした。いつからだろう、片目が見えなくなった彼には誰かが誰かに殺される瞬間が視えるようになってしまったのだ。


060831











にゃーにゃー小政

表情はいつも通り。片膝を立てて脇息によりかかっている姿勢もそのまま。だがぱったぱったとその尻尾が床を打つところを見ると、機嫌が悪いようだった。政宗様、と呼ぶと俺の方に近い左の耳だけがちいさくこちらを向いた。なのにそのまま聞こえぬふりを通そうとしているようだ。上等じゃないか。なにをそんなに拗ねているのか心当たりが無いわけでもない。
「最近外にお出になりたいようで。」
しれっと言うと尻尾は途端にぼんと太くなる。図星だな。
「声も時々大きくなりなさる。だがおかしいですな政宗様。我々は発情期の女子の香りでそうなる筈。今、愛さまをはじめ側室方にその時期の者はいないというのに、どうされましたか。まさかお忍びで城下に出られたなどとは仰りませんでしょうな?」
一息に言い切れば主の耳も髪の毛もすっかりしゅんとなってうしろに寝てしまっていた。(それでも表情はまだ精一杯変えないよう努力している)
「勝手なことをされて下らないものをうつされて、挙句の果てにこの小十郎に八つ当たりとは少々おいたが過ぎます。」
「ちっ、違ぇよ!」
俺がばっしと自慢の尾を床板に叩きつけて言うと、そこでやっと政宗様は俺のほうを向いて喚いた。普段は灰色から黒の瞳が興奮に染まり薄く青みを帯びている。その色は嫌いじゃない。
「理由がある!そんなこともわかんねえのか小十郎!」
お前が悪いんだとでも言うようなくちぶりに思わず笑いそうになる。なんと幼くて正直な猫なのか。(しかも発情期になってしまったことの否定は無しなのだな)
「わかりますよ。政宗様。」

「構い足りない、と仰るのでしょう?我侭なお方だ。」


060903











佐助×政宗

うそつきめ、と小さな声が闇夜に光った。胸が微かに痛むのはそれが嘘ではないからだ。
お前は、うそつきだから嫌いだ。
腕の中の竜は更に言う。どうしてこの人は今もこうして傷ついているのにそれでもまだ真実を求めるのだろうと俺は思った。
「痛みと引き換えに本当のことが欲しいの?竜の旦那は。」
そういうところが嫌いなんだよ、と甘く続ければ不敵に笑う。本当に俺達、気があわないね。まったくだ。そんなやりとりの合間にもあちこちにくちづける。
嫌いだ嫌いだ、俺も旦那も呪文のように呟いて、それが最後の線なのだ。

「俺もあんたも、本当にうそつきだ。」

だってこれが切れてしまえばもう二度と引き返せない。


060906











小十郎×政宗

稽古の後、いつもきっちりと整えられている小十郎の黒い髪が一筋額にかかっていた。政宗はしばらく珍しいものでも見るようにじっとその顔を見つめる。むせるような打ち合いの熱気を纏ったままにしたたる汗を拭う姿は、清廉さとともにどこか凶暴さも帯びていて其れがまた良い。小十郎の顔になにかついておりますか、と視線に気付いた彼が歩み寄ってくるのを更に手で近くへ招き、しゃがめ、と命じる。黙ってするりと右手の指で髪を払ってやれば小十郎は仰って下されば良いものを、恐れ入ります、と頭を下げた。律儀な男だ。主は首を振りながら悪戯っぽく笑って小十郎の髪を梳き額を撫ぜた自分の指をぺろりと舐めた。驚いた小十郎の瞳がすこし見開かれるのを見下ろしながら舌を覗かせて、しょっぱいなと言うと、そのようなことをなされますな、などと嗜める声。響きに含まれる困惑と怒りさえ愛おしい。お前以外にゃしねえよ、と返したときにそういう問題ではございませんなんて眉間の皺を深くしてみせるくせにどこかで安堵してるのも愛おしい。


060907











幸村&慶次/そこはかとなく幸→政←慶

たとえば自分がなぐられたとして。
それがすごくいたくて泣いてる時に本当にしてほしいことは、
別に相手を殴りにいくことじゃなくて
抱きしめてくれることだ。
なんでもいいからぎゅっとして、いたむところを撫でてほしいだけなんだ。

お前、その二本の腕は槍持って人をぶんなぐるためのもんじゃないだろう。
大事な人を抱きしめるためのもんなんだよ。
そう言ったらその、また餓鬼みたいな顔した戦馬鹿はわからない、とすごく怒ったような悲しいような表情で唸った。
だって想いをぶつける方法が、刃をぶつけることでしかないのだ。
切って殴って突き立てることしかできない。
そんなの寂しすぎる、俺は言ったけど、でも俺だって結局こわくて触れられずにいる。今度は殺しても死ぬような人じゃないような気がするけど多分絶対に泣かないし痛いとも言わない。だから俺は曖昧に茶化して触れるだけですぐ離れてしまう。
それじゃあ結局、あんたと変わりないよな。
俺とあんたの二本の腕、どっちがあの人にはやく届くんだろう。



060909