巨大獣
どうしてこんなことになっているのか。
お互いがそう思ったに違いない。 政宗の上では今にも泣き出しそうに困り果てた表情の幸村が真っ赤になって息を噛み殺している。それでも時折耐え切れずにく、くん、という主に置き去りにされたときの犬の鳴き声みたいな音が歯の間からこぼれ落ちて政宗の鼓膜をふるわせた。
「ま、ァ、・・・まさむね、どのっ、い、う、いたっ、」 「・・・ッ、Ha!お子様にゃ、ちいっと刺激が、つよかった、か?」
発端は実に下らないことだ。純粋初心な幸村が前田の風来坊慶次に愛だの恋だの夫婦だの、それが武芸の役に立つだの吹き込まれまくってなぜだかその解説を政宗に求めてきた。既に妻を娶り側室も持っていた政宗は面白がって更にあることないことを教えてやった。何かを言うたびに顔を赤くしたり青くしたりして話を聞く幸村があまりにも可笑しくて(そして少し可愛らしくて)やりすぎてしまった。
「お前、もしかして前も後ろもまだなのか。」 「???な、なにがでござるか???」 「甲斐の虎は相当の好き者だって聞いたぜェ?女も好きだが―男にも目がねえ、って。」
幸村はそれはそれは間抜けた、意味がわかりませぬ、と前面に筆で殴り書いてあるような顔をして政宗を見返した。だからつい―
「しばらく・・・ッ、動くなよ・・・幸村・・・」 「そうは言っても・・・ま、政宗殿が、動いて・・・!」
政宗は口付けして、驚いたところに舌を忍ばせ、とろけるまで絡めて唾液を流し込んでやった。あちこちを齧って(これはくすぐったいと笑った)中心に触れたらぎゃあぎゃあ騒ぎ出したので問答無用で口に含んだら硬直してあ、あ、あ、と驚愕から快感への音階を踏んだ短い息を吐き出しながらその瞳が潤んだ。
「動いて、ねえだろ、がっ、」 「ち、ちが・・・そうではなく! ・・・中、がっ、そんなに、っく、しめつけられる、と。ふあ、・・・っう!」 「・・・!てめ、・・・Shit!まだデカくなん、の、かよっ!」
幸村が果てるのはおそろしく早かった。そのことを男としての矜持を壊さぬよういいのだ大丈夫だと宥めつつ、だが褥では気をつけるべきなどという一体自分は何の講義をしているのだという疑問を抱かずにはいられないような注釈を加え、政宗は一旦体を起こした。 この時点までは、よくよく考えてみればただの勢いだったのだ。 多少(?)悪趣味なからかい方で友人の見たことの無い顔が見てみたいという好奇心、ついでにその泣き顔も見てみたいという嗜虐心。 それが、
「このようなことは納得がいきませぬ。」 「なんだよ、気持ちよかっただろ?べっつにこんくらいで・・・」 「某だけが気持ち良いのは失礼でござろう。」 「・・・Ha!?」
油断していた。仔犬だと思っていたのは実は虎の子だったのである。妙な義務感と恐らく初めて沸き起こったのであろう他人に対する色欲に照らされ不安定に光る双眸に、不覚にも政宗はちいさく身震いした。
「まさむね、どのっ・・・!」 「耳元で、しゃべ、んなっ!あーもういいっ!うご、けっ!」
まったく手順もなっていないし、政宗の行動を反芻しているだけ。しかも力加減を知らないものだから政宗は幾度か苦痛に呻くことになった。 なのに気付けば幸村を受け入れて、あまつさえ控えめながら甘い声を上げている。 その熱さを胎内に感じた瞬間涙が出たのはただ生理的なものだ。そう思いたい。
「・・・、っひ、・・・く、うあぁ!」
制止する言葉も力も幸村の楔が身を穿ったときにもぎ取られてしまったようだ。拙いながらも必死に自分を律して慎重な動きを心がける幸村に、だって何と言ったら良いのだろうか。 このような始まり方をした交わりの最中に、一体何と伝えたら良いのだろうか。 ゆったりと動き出したその背に思わず爪を立てた。
「まさむねどの、まさむね、どのっ、」
応えるように抱きしめてくる腕の強さ、覆い被さってくる体躯の逞しさに眩暈がする。 自然と唇が降ってきて、同じく当然のように唇を開く。 自分としたことが相手の大きさを見誤ったらしい、と霞む意識の中で政宗は考えた。
さて、これからどうなってしまうのだろう。 人肉の味を覚えた虎は必ずまた人を求めると言うけれども。
END 20060802
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