ともれ


触れられる度に意思とは無関係に体が跳ねる。
痛みなのか熱さなのか冷たさなのかの判別もつかずにただびくびくと震える。

最初、幸村はよく驚いて手を引っ込めたものだった。外の空気と同じくらいに冷え込んでしまったかと思われる肌をなぞる指は、熱い。
俺が恥ずかしくも―あ!という短い喘ぎ声を上げたせいで、幸村の手はまるで悪いことをしたかという風に縮こまり離れてしまった。俺はとても困って、いいから続けろよとぶっきらぼうに言う。そろそろと触れられると、また、同じことがおこる。


「お前が、子供みたいな温かさなのがわるいんだぞきっと。」

幸村に非はないのに、そう言ってしまう。いやしかし間違ったことは言っていない。こいつの手は一瞬其れが何なのか、を取り量ねるくらい熱い、と俺は思う。「皆にもよく言われる」ぶすっと膨れっ面で反論できないまま肩を竦める様子を見ると、馬鹿にされたと思ったらしい。”子供”という単語に存外反応するあたり、子供だ。(…俺も身に覚えがないとは言わないが。)
やわらかさと硬さ、幼子と大人が同居したようなてのひらで、顔で、幸村は俺を支配する。

「っく・・・う、ン、」

声を噛み殺すのはせめてもの抵抗、最後の矜持。
残念ながら最後まで持続したためしは無い。

「―ふ―ッ!」

慌てて両の手で口を塞ぐ。幸村の唇に性器が食まれ、そのまま粘膜にねっとりと包まれていくのがおそろしいほどはっきり脳天まで伝わってきて腰が逃げる。なにもかもが重く痺れて、思考など疾うに溶けて散ってしまった。掠める髪の一本一本まで、火の粉が皮膚を焦がすように体をちりつかせていく。殺される、と何故か思う。だって熱い。焼かれる。

「政宗殿。」

いつも、幸村は俺を貫く前に名を呼ぶ。どんなに己が切羽詰った状態であろうと、まるでなにごともないように穏やかに決然と。
彼にはあまりにも似つかわしくない、晩秋の落日の寸前のように寂しく静かな面持ちと声色など、もう覚えてしまった。覚えてしまったくせに何度見ても何度聞いても、鼻の奥がつんとして顎の根あたりが後ろにひっぱられるような感じがして、ああ俺は泣きそうなのかと思う。

「―イっ、つ、ぅ、うあ・・・っああ、あ、あああ!」

腹に灼熱。俺は決壊。馬鹿みたいに泣き喚いて己を犯す男を殴るようにして抱きしめる以外何もできない。揺さぶられ、掻き回され、時には押し開かれた結合部が血を流して敷布を紅く汚す。その上に濁った白が覆い被さろうとしても無駄なことで、猥雑な色があちこちにどんどん広がっていく。

「あ、っ・・・つ・・・あつ、い。あつい、・・・あつ、」

ひっく、と無様な音さえ混じらせながら、俺は何を伝えたいんだろうか。自分でもわからないのだから幸村にわかるはずもない。きっと。ただそう叫び続けると強く抱いてくれるから、いい。滑らかでぴんと張った筋肉と皮膚に押し包まれると、全身が勝手に打ち震える。そうしてようやく俺はその名を呼ぶことだけに没頭する。幸村、幸村、ゆきむら。すると幸村はいよいよもって腕に力を込め、その怒張は伸び上がり俺の胎を食い尽くそうと這いずり抉る。やがて終焉を迎え、奔流を受ける瞬間に俺も達した。
楔が緩やかに萎えていくのを待っていると気遣うように髪を撫でられて、俺は呑気にもまどろんでしまうことが多い。霞んでいく意識の中、はっきりしているのは熱。幸村が触れたところすべてに在る、光の欠片、くすぶる火種ともつかぬ輝きに似たもの。
緩慢な所作で幸村の胸に頭を押し付けると、沈黙を守った唇が額に降って来る。
やはり、熱い。

「この、子供体温が。」

薄く笑った。
幸村も笑った。
知っているだろう、悪いのはそれではなくて、単にお前のことを想いすぎている俺だ。
熱い。
未だ鈍く脈打つ下腹に手を当てる。
熱い。
これはお前の炎なのか。
ならば消えてくれるな。


幸村、
お前の火が、俺に灯ればいい。


END 20061128