佐助&幸村
佐助!と叫んで飛びついてこられると、恥ずかしいことに今の俺ではときたまよろめいてしまうことがある。昔はそんなことはなかった。旦那はとてもちいちゃくて、ほっぺも手もぷにぷにしてた。そしてよく転んだ。まだ俺はその頃思春期というかちょっとした反抗期で(あったのよ俺にもそんな時代が)転んでびゃーびゃー無く”弁丸様”を遠くからじっと見てるだけだった。それでも子供ってのは馬鹿で、というか彼に限って馬鹿なのか、(多分、両方)俺がどんだけ―流石に邪険にはしなかったけど―放置してても隙あらばじゃれついてきた。ある日また転んでいたから、俺はいい加減あきれ果てて抱き起こして、もうちょっと足元気をつけてくださいよ、と言った。そしたら弁丸様ははちきれそうな笑顔でさすけ!と叫んだのだ。それから旦那が転びそうになると俺は駆け寄った。間に合ったり間に合わなかったりした。時には前のめりになったその石頭が俺の股間につっこんできたりしてあやうく死にそうになったりもした。 「佐助!」 よっし来い。さあ来い。今日は倒れませんよ。でもまあ、俺がたおれたってあんたが無事ならそれでいいんだけど。 それでいいんだよ。
061102
走る(政宗)
先も見えないまま走ってるって言うが俺は右半分さえ見えちゃいない だからどうだっていうんだ だからどうだって 立ち止まってる暇があったらついてくるといい 着くのは地獄かもしれないが
血みどろ、汗みずく、泥まみれ 小さい頃、生きることはもう少し楽だと思ってた
すれ違う奴らの声は皆すぐ後ろに吹き飛んでしまう それでも聞こえてること、知ってるか
俺だってもう駄目だってあと千回は思うだろう それでも走る たまに笑い転げながら
少し前、生きることは一人で走ることだと思ってた
061117
幸村×政宗
庇から滴り落ちる雨だれが縁側の先の砂地に模様を作っている。不規則に穿たれたいくつもの小さな丸と、其処に更に落下してくる水粒を、幸村は長い間飽きもせず不思議そうに眺めていた。政務がたまりこんで机に向かう政宗にとっては好都合だが、あまり静かすぎるのも不気味だ。 「おい、幸村」 「………」 「…おい!幸村!」 「はっ!な、なんであろうか!?」 ぼんやりしていた瞳が急速に一点を捉えて、ようやっといつもの彼の様相になる。 「…この俺を差し置いて他のモンに気ィとられるとは上等じゃねえか…!」 幸村が慌てて座した体ごと城主に向き直った、と思ったときには既に政宗の方は紅い客人の前に仁王立ちになっている。 「そろそろ退屈してたところだ。相手しやがれ」 ふんぞり返ってそう言うと、幸村は神妙な顔でこくこく頷き、立ち上がってそのすこし冷えた体を抱きしめた。そして二人は味わう。雨の一しずくの中にさえ思いを馳せていた愛しい人の温もりを。
061123
小十郎×政宗(幸村×政宗)
「またあの紅い奴のところですか。」 小十郎の家臣然とした妙に硬い言い様に、政宗は肩をそびやかして振り返った。口元は笑っている。 「Oh〜、ま、ついでだ、ついで。」 何の?という言葉は返ってこない。ごく静かな憮然とした面持ちでそうですか、とそれだけだ。主の気まぐれには彼ももう慣れているし、ちょっと目を離した隙に行方をくらませることなどでいちいち怒っていては身が持たない。 ただ、ただ相手が問題なのだ。 至って軽装、刀は一本。 その気軽な装いが相手にどれだけ心を許しているかを現しているようで、知らず小十郎は眉を潜めた。政宗の唇がいよいよ楽しそうに歪むのを見て、しまったと思うものの仕方ないとも思う。 「どうした?小十郎。」 わざと首を傾けて伸ばすその仕草。白い首の筋がぴんと張り、付け根の骨が隆起する。 「行って欲しくないか。」 触れ合えない、手を伸ばしてもぎりぎり届かない距離でそう囁くのまでも計算づくなのだとしたら素晴らしいものだが、幸いというべきか彼はそこまでしたたかではないことも知っている。 「行って欲しくないって言ったら、行かないぜ。」 からかい過ぎたと思ったか、はたまた逢瀬の場所へと急ぎたいのか、語尾を弾ませ茶化し千切りながら踵を返すその痩肩を一息に踏み込んで掴む。 「…っ!?」 「行かないで下さい。」 「な、」 「政宗様は最後の最後でいつも見通しが甘くていなさる。」 「Shit!ちょ、小十郎、今は本当に、」 「行かないで下さい。」 「こじゅ、」 「行くな。」 お遊戯の時間は、ここまでだ。
061126
にゃーにゃー小→政←幸
幸村に寒い、という感覚は凡そ欠落しているらしく、小十郎は寒さには別段弱くないらしい、が、政宗はとびきりの純血種故寒さにも弱ければあつものにも弱い。ところが苦手ではあっても好きなので、いつも熱いものは熱いうちが良いのだと涙目になり火傷しながらも飲んだり食べたりしている。小十郎が気を利かせてぬるめの燗などを出せば「こんなの熱燗じゃない!」などとぶりぶり怒りながらもとりあえず杯を干す。そんな様子も、実に可愛らしい、とこのときばかりは犬猫の仲(?)である小十郎と幸村もにこやかに眺めていた。(そして「見てんじゃねえよ!」と赤面した政宗に怒鳴られた) 今日も冷え込む。政宗の耳と尻尾は可能な限り毛を膨らませているように見えた。幸村が鍛錬を終えて、いつもの通り政宗の居室を覗きこむ。その全身からは湯気が立ち昇っている。政宗はそれをじーっと見詰めるとべたりとその裸身に手をつけた。幸村がぎゃっ!ともぎゅっ!ともつかない声をあげると慌てて引き剥がして「汗が気持ち悪い」などとのたまう。無意識にしてしまったのであろうその行動に、あまりの言い様にも関わらず幸村は首を振って笑った。 「今、ふいてまいります!」 駆け出していく足音、入れ替わり若干尾を不機嫌に揺らしながら入ってきた小十郎が「うるせえガキだ…」と唸るのを聞かなかったことにし、政宗は温い白湯の椀を両手で包んだ。あと少しすれば綺麗になった人間湯たんぽもまた戻ってくるし、小十郎の手もなかなかに心地良い。なるほど、冬も悪くはないものだ。政宗は満足げに鼻から息を吐き出して、ぷしっとひとつ小さなくしゃみをした。
061201
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