市×政宗(ちょっとだけそれっぽい描写注意)
舌を噛み切ろうとしたので猿轡をされた。両手で咽喉を掻き破ろうとしたので後ろ手に縛り上げられ首枷をつけられた。羽と手足をもがれた蝶のように転がっている政宗は、最早奥州筆頭独眼竜というにはあまりに惨めな様相だった。 「殺せ。」 布越しに放たれた低音は言葉として成立しない。それでも命じる強さでもって闇に響く。丁度その時、戦装束から美しい錦の着物に身を包み換えた黒髪の女性が入ってきた。 「…貴方、市のものになったわ。」 「…Ha!」 笑い声だけはそれとわかる。市は人形遊びでもするかのように嬉しそうな面持ちで政宗の髪を撫でる。冷たく細い手指に、政宗は肌を粟立てて身を捩り振り払おうとした。 「長政様に頼んだの。いじわるはしないから、市に、ちょうだいって。」 光の失せた、どこを見ているかも判然としない目。 「…どうしようかな。」 つつ、と人差し指が、白い薄物越しに胸元から臍のごつごつとしていながらも美しい曲線をたどる。 「市を、楽しませてね。」 にっこりと笑う顔に目眩がする。どうしてこんなにも似ていないのに―似ていると感じるのか。嗚呼、どうして。 「おゆき。」 市の足元からまたあの時の紙のような真黒の手がこぞって伸びる。明らかな意思と意図を持って迫ってくるそれにあらん限りの力で抗い、吠え猛りながら己を叱咤し続ける。 迷うな。惑わされるな。堕ちたら終わりだ。 「ん、ぐ、――ゥウ!」 脚を割り開かれる感触に、政宗は一つ眼をいっぱいに見開き、それから市を睨みつけた。 「可愛い。」 くすくすと笑う響きは静かで穏やかで、深い。
「さあ、全部見せて。私の――梵天丸。」
惑わされるな。 堕ちたら終わりだ。
061203
北の小政
自分の息で乳白色に濁る視界、横から叩きつける、砂嵐にもにた風雪。樹木には青白い光が宿り、道もぼんやり沈んでいる。何もかもが白と蒼。
流石の政宗も今ばかりは厚着をしていた。共に歩くのが格好をつけるような相手でも無いからだ。誰か他の者であればどんなに言われたって薄着でいる。それで先日も風邪をひいて小十郎にしこたま怒られたのに、彼はまったく懲りていない。
「一度こういう天気の時になんだったかで俺が泣いてさ。顔ががびがびになって大変だったことなかったか?」 「成実に負けた時のことですか。」 「よく覚えてンな。」 「どちらが大きな雪玉を作れるか競争していたのでしょう。」 「Ah〜…そだそだ。なっつかしいなあ。」 しゃがんで雪をかき集めると、きこきこと雪が軋んだ。もう積もって随分と経つのだろう。かたく、お互い身を寄せ合い抱きついて離れようとしない。 「づべだ…」 「政宗様。今ここで作るのは無茶ですぞ。」 「わーってるよ!」 そう叫ぶと乱暴に羽織で濡れた手を拭き、小十郎のてのひらと合わせる。あまりの冷たさに小さな目が瞠られるのを興味深げに覗いて、政宗は笑った。 「お前はあったかいな。」
061208
全員集合!(学生パラレル政宗は893の息子設定)
幸村は赤いポインセチア。 佐助は青金石の飾りのついたガムランベルのペンダントトップ。 元親は実家から送ってもらった酒。 元就は小さな硝子のルームランプ。 慶次はレザーの手袋。
「これはまた…お前ら揃いも揃って色んなものを持ってきたな。 で?プレゼント交換すんのか?俺なんも用意してねえぞ?」 政宗が腰に手を当てて鼻から息を吐き出した。その後ろには一流のシェフも顔負けの料理が山のように作ってあり、小十郎がソムリエばりにカトラリーを並べ、ワインの準備をしている。 「違うでござる。」 「そうそうこれは、」 「交換じゃねーよ。」 「そうだ。」 「政宗にあげるプレゼントだろ?なあみんな!」 「はあ?」 マンションのあまり大きくない玄関に十代後半から二十代前半の男共の靴が大集合というある意味凄惨な光景を横目に、政宗は頓狂な声で聞き返しながらテーブルやソファへ彼らを適当に座らせる。 「だって今日はぱーりぃなんでござろ?」 「政宗主催の。」 「お前ン家開催で全部お前の料理なんだから、」 「まあ、このくらいは当然だな。」 「そんなわけだからーっ!ほらほら片倉のお兄さんも!」 「は。政宗様、どうぞ。」 あの小十郎までもが皆に倣って主にプレゼントを手渡した。イエローゴールドのリング。オイオイ給料何か月分だ?と混乱した頭で考えながら本日の主催から主役へと格上げ(?)された彼は変な帽子を被されてクラッカーを手に押し込められる。 「それではみなさん!」 慶次が叫んだ。
「「「「「「メリークリスマス!!!!!!」」」」」」
「め、Merry Christmas!」
やけっぱちに叫びながら政宗は笑った。 涙が出るほど笑った。 恥ずかしいことにこんなにたくさんの人と過ごすHappyなクリスマスは生まれて初めてだ!
061225
小十郎×政宗
何かすこし違うな、とその程度のものだ。俺の主は意地っ張りさにかけては日の本一だと思われる。のでむしろ最初は必要以上に俺を避けているとさえ感じるわけだ。ところが不意に視線を感じる。それは茂みの陰からこちらの様子を窺う飢えた野良猫のような視線で(などと言ったら六本の爪でズタズタにされちまうだろうが)つかずはなれずひたりと背についてくる。何か御用かと聞けば何でもねえよ、と、案の定。空が暗くなるにつれて眸のぎらつきが増してくる。誘うのはいつも向こうの方で、俺はそれを受け容れるばかり。きっとそれが不満なことも気付いているともさ。政宗様、俺もそういうところは意外に器用じゃないってこと、わかってくれませんかね。俺はあんたをそうやって焦らして遊んでいるように見えるかもしれない。(全然そうじゃないと言えば嘘になるのも確か)でも、ただ、怖いだけなんですよ。 「政宗様、後でお部屋に伺っても。」 すれ違いざま硬い声でそう言ったときの、一瞬すべての鎧が剥がれ落ちる貌が好きだ。 「勝手にしろ。」 なあ、政宗様、俺が手加減のできない人間だって、アンタだって知ってるでしょう。
070110
佐助×政宗(学生パロ)
道場で素振りしている時のような凛とした横顔ですらっと煙草などふかすのが最悪だ。と言っても一日三本だけと決まっているらしい。朝昼晩に飲むことを習慣付けられたビタミン剤のようなものなんだろうきっと。シャツもきちっと着ている(第一ボタンは外してるけど)し、ネクタイも締めている(ほんの少しだけ見苦しくない程度に緩めてある)し、ブレザーとシャツの袖をまとめて捲くっているのも自然だから全然下品じゃない。「ブレンド一つ。」改めてその容姿を確認しながら、綺麗な指が財布から小銭を出してカウンターの毒々しい緑のトレイに置くのを、俺はじっと見ていた。どんな感触がするんだろう、と思ったのは一ヶ月ほど前だったっけか。「今日は冷えるね。」長い脚を優雅にたたんで椅子に座った政宗の手を、テーブルの下で握りこみながら俺は笑う。息を吸って、吐いて、そうだな、と言って、それから振り払われることに、満足している。
070122
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