佐助×政宗(大学生パロ)
「あっだ!」 爪先をだんと勢い良く踏まれて俺は飛び上がった。質の良い皮で作られたダークブラウンのエンジニアブーツ。重い。そして痛い。 「物色するな。見ているこっちが恥ずかしい。」 政宗はそれだけ言うと隻眼を下へ向ける。そんな彼を、通りがかる女の子達がこの世のものか確認してるのかというくらい凝視してるの、知っているんだろうか。 俺たちの学部があるキャンパスは本来ここではないのだけど、おいしい焼き立てのパンが食えるのでたまにぶらっと二人で来たりする。 で、ここの学部は女子の割合が多いので、俺としてはつい物珍しくて見てしまうのだ。…いや、まあ別に珍しくはないんだけどね。 「あの子可愛いな。」 「…どれだよ。」 「あれ。」 「Ah?俺はそれより向こうの…、」 政宗は意外にもキッツイ美人ではなく、友達と楽しげに談笑するたれ目気味の女の子を指差した。小さなくるりとした眸に、キャラメルブラウンの髪。 対して俺の示した先にはつり目で綺麗な顔立ちの女の子。スレンダーで黒髪がよく似合う。 お互い、どちらからともなく見詰め合ってしまって、俺は笑って、政宗は「Shit!」と悪態をついた。
なんだ、なるほど、そういうことだ。
070324
幸村×政宗(高校生パロ)
がたとん、がたとん、と一定のリズムを刻む満員電車の中、ざわついた空気がそこだけ鳴りを潜めているように見えた。厳かというのは些か大袈裟かもしれないが、すこし捻られたくびすじ、顎の涼やかな曲線、自分の唇より僅かばかり上にある通った鼻梁に、幸村は軽く十と一回はかぶりつきたい衝動に駆られた。 電車は走る。体を揺らして。中の人はどんどん増える。 「混んでるな。」 遠く窓の外を見やったまま呟かれた一言の呼吸の温さに、眩暈が起きた。埃っぽい自分の学ランが、糸くず一つついていないだろうブレザーに触れるのが悪いと思ったけれど、どうしようもない。 なだれ込む人に押されて、体がのめりぶつかる。 「あ、も、申し訳ない。」 「大丈夫か。」 妙に生真面目にそう言う政宗を、美しい、と感じるのは間違いなのだろうか。 幸村の頬に、薄く血がのぼった。
0703031
元親&政宗
「…お前なら、着れるかもなあ…」 元親がぼそりと呟いて古ぼけたつづらから引っ張り出してきたのは、色とりどりの着物だった。 「Hey.」 「あ?」 「殴っていいか?」 「あァん?」 ただし、女物。 「別にいいだろうがよ。このまましまっとくのも勿体ねえし。」 「よかねえ!今度から元・姫様って呼ばれてえのか?」 「…こないだの勝負一回分。」 「Ha?」 「お前が負けた勝負、一回分の支払いってことでどうだ?」 と広げたそれは、薄桃色の地に手まりや折鶴が染め抜いてある、見るからに愛らしい一品だ。 「…!!!!!!」 響くのは奥州筆頭独眼竜の、果敢ない断末魔。 そして元親の部下が「見たことのない美人な姫様がアニキの部屋にいた!」とふれまわるのにそう時間はかからなかった。
後日、政宗の手元には夏の青空よりも深く鮮やかな紺碧の絹反物が届けられたわけだけれども。
070414
小十郎×政宗
乱暴な足音がみるみるうちに近づいてくる。 「筆頭!ちょ、待って下さい!今は…!」 「Shut up!テメエは引っ込んでろ!人払いだ!」 障子枠がふっとぶくらいの勢いで横に滑り、小十郎は血に染まって狭まった視界で主の姿を捉えた。 「政宗様…」 「…Damn…!たまに離れりゃァこれだ…!」 それはこちらの台詞だ、と思う力くらいは残っている。 「傷はどこだ」 「いえ、政宗様。この程度は自分で…」 「どこだ」 「はあ…」 ここと、ここだと小十郎が己の体を指で示すと、政宗はしばらく呆けたような顔になって「それだけ?」と聞いた。 「ほとんどが古傷です。羽織も、返り血でしょう」 横に打ち捨てられている血泥に塗れた布を見て、新調しなければと思う。視線を正面に戻すといきなり唇を塞がれた。 「…びっくりさせやがって…」 「申し訳ございません。まさかこのように―」 戦場の死臭の抜けない体に主を抱き込めば、その拍子にこぼれた熱い吐息が胸を打つ。小十郎はちいさく笑った。 「ご心配頂けるとは」 「べっ!別に…!」 騒ぐ口に指をねじ込んだ。きっと血の味がするだろう。 次第に酩酊したように隻眼を潤ませる独眼竜を前に、小十郎は牙を剥く。 「お許しを。今は手加減ができませぬ」
070418
佐助×政宗
薄く濁る政宗の視界の隅に、あの奇妙に目立つ髪の色だけがやけに鮮明に見えた。 体の感覚はまったく無く、首から下が無くなってしまったのかと一瞬思う。けれど軋む眼球を傾けてみれば、そこには果たして羽織を引きちぎられ、鎧を奪われた傷だらけの体躯が、包帯で巻き締められて横たわっていた。 「…目、覚めた?」 「……ァ」 武田の忍か、と口にしたはずの言葉は、掠れて消えた。 「…なんでだろ。」 そりゃあ、こっちの台詞だよ、と、早くも動かすのを諦めた唇に、薄笑いだけを浮かべて、独眼竜はまた眠りに落ちた。 「…何すぐ寝てんの。俺はアンタの敵でしょうが。」 勿論、眠らずにはいられない筈だ。先ほど飲ませた薬湯には、痛み止めと解熱、それからつよい眠気を催す薬草が煎じてあった。 熱のせいか、すこし早い寝息を立てる政宗の胸の上に、怪鳥じみた影を落として佐助の手が翳される。
「でも俺、アンタが他の軍の奴らにあんな風に殺されるなんて、許せなかったんだよ。」
「真田の旦那も、きっと同じこと、したと思うし。」
「だから、」
「だから、ただ、それだけなんだよ。」
彷徨ったてのひらは、汗で額にはりついた細い髪をすくい払って、静かに去った。
070507
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