2.75:リトルグッナイ


「ただいまー」
「あーおーみーねっちいいいいいいいいいい!」


俺が怒っているのは青峰っちが酔っぱらってるからでも、帰りが遅いからでもなんでもない。
それはむしろわかってたことだし、許可出してることだから。
青峰っちは少し上気した顔(スゲェわかり辛いけど地味に赤黒くなってる)でこてっと首を傾げて「どした?」だなんて言う。かわいいヤバい。抱きしめていっぱいキスして、おかえりなさいお疲れさまって言いたいけど、ガマン!

「おい黄瀬ェ。なーに怒ってんだよ」
「わかんないんスか」

俺の肩に両腕を乗せて鼻先をくっつけてくる青峰っちの口からは、しゃべるたびにふわふわアルコールの香りが漂ってくる。
一杯目は乾杯のビール。二杯目はカカオ・フィズとかカルーア・ミルクとかの甘いカクテルだろう。
多分飲んだのはそれくらい。
この人ってば見た目によらずお酒弱いんスよ。なんか一升瓶抱えて(でもって桐皇のネクタイ頭に巻いてたら似合うよなきっと)「飲め飲めー!」ってやってそうなイメージなのに、ホントからっきしダメなの。ちょっと飲んだら耳まで赤くなってすぐ眠くなっちゃう。俺の方が断然強い。強いっていうか普通? 少なくともあんまし顔には出ない。お酒の種類も辛口が好き。イメージ的にはオシャレなカクテルとか飲んでそうらしいけど(そりゃそういうのも飲むことは飲むっスよ)、実際はいきなり日本酒いったりしちゃうから意外って言われる。
それはさておき、俺は一呼吸ついて何もわかっていないアホな旦那に、この怒りの原因を説明してあげることにした。

「ちょっとこれを見るといいっス」

ワークデスクの上のノートPCを開いて、動画を再生。
今日は4月最後のゲーム。つまり、シーズン最後の試合。
この試合にはちょっとしたイベントごとがあった。
イベント、というか……試みとでも言うのだろうか。
試合中、特定の選手だけをずっと追いかけるカメラを据えてみるってヤツ。
発案は桃っちと俺。
これを導入するに至るまではそれなりに色々あったんだけど、今は省いとく。
とにかく、

『まずは一度やってみるべし。機材の関係もあるから、まずは関東である試合のどれかだな。リーグのオフィシャルサイトで人気投票を行い、最多得票数の選手に一台専用のカメラをつけよう。そして好評であれば来季もやる』

という、いつの間にやらプロバスケ協会のアドバイザーなんかに就任していた赤司っちの鶴の一声で、さくっとカメラが一台余分に入ることになった。
そのカメラマンさんとカメラ増やすだけでも結構な単位のお金が出るはずなんスけど、そこはやっぱ赤司っちっていうか……。
そもそもそれ、スポンサーとかアドバイザーの枠ぜってぇハミ出てるって。偉そうなオジサンたち、赤司っちにペコペコしてたしどうなってるんスか。相も変わらずの年上キラーすか。アレコレ突っ込むと怖いから言わないスけども。
ただまあ俺もフツーに「だいじょぶっスかね」と、それとなく心配はした。
そしたらば赤司っちはとんでもなく美しい笑顔でもって、

『全てにおいて問題ない。その分、選ばれた選手からは搾れるだけ搾り取ってやるからな』

そう言ってのけた。
帝王は今もご健在どころか、なんかパワーアップしてた。
その後、人気投票で栄えある第一回目の注目選手に選ばれたのは――
スペインリーグでプレイした唯一の日本人プレイヤー、そして現在チーム東京クラウ・ソラス在籍のPF、青峰大輝その人。
トーゼンっしょ! と思ったけど、赤司っちにほどほどでお願いしますって言ったよね。

『安心しろ涼太。おからくらいは残してやるさ。安心して拾って食べるといい』

俺の青峰っちが、カッスカスのおから(黒)になっちゃう!
俺は悲鳴をあげたけど、なんのことは無い。取材がいっぱい入って写真撮られまくってCM出て、ってだけだった。
それでも青峰っちはへとへとで、「黄瀬お前毎日あんなんやっててよく平気でいられんな……」なんて言ってた。
CM撮影でファンデ塗られてる青峰っちったらおっかしかったなあ。
日本人用のカラーが合わなさ過ぎて、メイクさん困ってたもん。
めでたくBSでの中継も決まって、ネット配信の準備も整い、カメラの打ち合わせもカンペキで(青峰っちだと基本得点に絡むから、全景との差をよりきちんとつけるために、違う角度からボールハンドリングやステップがよく見えるようなアップで撮ろうとか、スタッフさん同士すごく細かくやったらしい)、晴れて試合の日を迎え――

「俺だいかつやくじゃん」

無言でモニタを見つめる俺の頭に顎のっけて、青峰っちが弾んだ声を上げる。それが脳ミソに心地良く伝わって、思わず頬が緩みそうになっちゃう。
うしろからおぶさってくる大きな体はぐんにゃり力も抜けてて、ぽかぽかとってもあったかい。
しかもそのままつむじのあたりに頬をすりよせてきたり、後ろから抱き込んだ俺の体ごと左右にゆらゆら揺れてみたりと、まるで子供みたいな真似をする。
そういうことすんなよたまんなくなっちゃうだろ。
俺おこってんだって。おこってんだから!

「ほらココ!」

第三クォーターラスト、まさに電光石火、ボールを持った青峰っちは追いすがる相手チームの選手などものともせず、コートを綺麗につんざく。
加速、停止、ジャンプ、体を反転させて、ゴールも見ず普通そこで手ェ離さないだろってタイミングで、シュート。
青峰っちの手から放たれたボールは、まるで「あそこに入るんだぞ」と言い含められてでもいるかのように真っ直ぐゴールネットへと飛び込んだ。

――『来たーっ! ここでまさかの体勢から、青峰選手のブザービーターッ!』

「……かっこいい」

思わず唇から素直な感想がこぼれてしまう。

「だろ?」
「はうっ! しまったそうじゃなく! この後!」

――『おや? 青峰選手、コートに立ったまま何かジェスチャーを……』
――『いや、これは……アレですね。ええ、その、』

「あのさあ青峰っち。カメラついてんだろカメラ。アンタだけ映してるカメラ」
「あーそうだな」
「何やってるんスか?」
「なにって?」

画面の中の青峰っちは、なぜだか右手を腰にあて、耳に左手の小指を突っ込んでいた。
そのまま試合続行中かってくらい真剣な顔でコリコリ、コリコリ……。

――『耳掃除してますね青峰選手』

「なんッで超カッコよくブザービーター決めた後に、堂々と耳ほじってんだよおおおお!」
「いやだって着地の時ごそっつったからとれるかなって」
「『とれるかなって』じゃねーよ! しかもズーム・ズーム・ズームのタイミングで『あれ?』→『おっ!?』→『取れたー!』みたいな顔面三段活用になっててなんなんスかこれ打ち合わせてたんスか!? ああもう台無しだよ! 俺のカッコイイ青峰っちが台無しだよ! つーかなんなんだよこのカメラも! 耳アカ取れた後のドヤ顔映さなくていーよ!」

俺は叫びながらなにがなんだかわからなくなって、最終的にカメラマンさんに怒りの矛先を向けてしまう。

――『おっとぉ……ハイ青峰選手、耳が痒かったようです。相手チームの選手が若干引き攣った笑顔で何か言ってますが大丈夫でしょうか』
――『いつものことなので大丈夫でしょう』

こんなことアナウンサーさんやら解説の人に言われちゃってるし。和やかな笑い声とか響いちゃってるし。

「それでおこってたんかよ」
「……そーっスっ」
「どーして」
「どっ、どうしてってそりゃ……!」

だって初めての選手専用カメラで、青峰っちだけを映してくれて、青峰っちが見放題で、これ俺の青峰っちなんスよすごいでしょ、青峰っちのバスケすごいでしょ、みんな見てみて、青峰っちのカッコイイところを余すところなくたくさん見てって思って。こう、ビシッと決めて欲しいじゃんそゆ時ってさ。なのに青峰っちってば全然いつも通りっていうか、それどころか呑気に耳かっぽじってて。だからつい「こんなことしてもー!」ってなっちゃって。

「ふーん?」

俺が必死に喋っていると、耳元で青峰っちが笑う気配。

「黄瀬」
「なんスか」
「じゃあお前、こーいうカッコ悪い俺は嫌いなのか」
「えっ!?」

何言ってるんスか。そんなワケないじゃないスか。
そりゃあ青峰っち、ウチだと食事中でも平気でオナラしたり、お風呂上がり素っ裸のまま冷蔵庫開けて牛乳をパックのまんま飲んでたり、すごいカオで鼻毛抜いてたりして、よくよく俺怒るけど。それはお行儀が悪いっていうか、外でウッカリそういうのやんなよって意味で言ってるだけで、ホントは俺の前でならどんな青峰っちでもいいっていうか、とにかくカッコ悪いとかそういうんじゃないのは確か。(そんなことより、いざあげつらってみたらこれ違う意味で大丈夫なのかなってちょっと心配になってしまったけど、うん、気にしないでおこう。)
だって正直なところ、青峰っちこんなでもカッコイイんだもの。
ベルリンブルーのユニフォーム姿でコートに仁王立ちして耳ほじってるのさえ、その者蒼き衣を纏いて金色のコートに降り立っちゃったレベルでサマになってるように見える俺は本当に病気なんだろうな。恋の。ぎゃあ言っちゃったっス。
いや、うん、スンマセン。
そういうフィルター抜きにしても、青峰っちって人は最高にカッコイイ人なんス。
少なくとも俺は、バスケしてる青峰っちよりもカッコイイ生き物を見たことが無い。
どんなモデルだろうと役者だろうと敵わない、人を惹きつける天性の輝きが、この人にはあるって思う。
けどそうだ。そもそも青峰っちは俺みたいにカメラを相手に仕事をしてるわけじゃない。
誰かのためにバスケしてるわけじゃない。
バスケすることこそが彼の日常で、仕事で、そしてそれが何よりも大切で大好きなことで。
カッコなんかつけない。
人様に自分をよく見せようなんて思いもしない。
俺だって、そんな青峰っちだから好きになった。

「……カッコ悪くなんかないし、嫌いじゃないっス」
「なら良かった」

ふっと背中が軽くなる。身体から離れる温もりが名残惜しくて思わず振り返ると、青峰っちが目を細めて俺の頭に手を伸ばしてきた。
つい数時間前までボールを掴んでいた、かたい五指の感触。きもちいい。

「俺ァそれで充分だわ。……まー、そのなんだ、お前が言うんなら……なるべく今度は気を付けっからよ……」

唇尖らせてそんな風に言われて、ノックアウトされない人なんている?
青峰っちに。この青峰っちに言われて。

「で? それでもまだお怒りは解けねーのかなー」
「――も、こんなんで怒れるワケないじゃないスか。青峰っちほんとズリーよ……」
「ふはっ! んーじゃ、仕切り直しだ」

手を取られて立ち上がる。頬を両手でむぎゅっと挟まれ、ちゃんと目を合わせての「ただいま」。
俺はついにガマンできなくなって、青峰っちのおでこに鼻先にほっぺにくちびるに、たくさんたくさんキスをしながら伝える。「おかえり」「お疲れさま」「スゲェかっこよかった」
それから「好き」。好き。アンタのバスケも、アンタも。
そしたら青峰っちってばこれ以上ないってくらいに満足そうな顔で俺のこと抱きしめて、「おう」って。「ごほーびよこせ」って。言うんスよ。
アルコールのせいなのか、今日の青峰っちってばちょっと甘えっ子モードっス。どうしよう胸がキュンキュン痛い。

「よっし! そしたら俺が、青峰っちの耳掃除したげるっス!」

これはもう存分に甘やかしてやるしかねーとばかりに、俺は洗面台からあるモノを取って来てソファに座り膝を叩いた。
青峰っちはあまり大きくない切れ長の眼をぱたぱたっと二度ほど瞬かせる。

「まじでか」
「まじスよ」
「膝枕で耳掻き?」
「そーっス。ごほーびだからね。あと試合中、耳ほじんないように」

いい案でしょ? とちょっと得意げな俺。ぶごっ、とヘンな音。
見れば青峰っちがしゃがみこんで肩震わせてる。え? え? なんで?

「黄瀬ェ……おま、かわいすぎンだろ……」
「はあっ!? どこがスか!? 今どのタイミングでそう思った!?」
「いやだって……ああクッソなんなんだコレ今日耳ホジして良かったガチで」
「ごちゃごちゃ言ってっとしてやんねーぞ!」
「するに決まってんだろうがバーカ!」

青峰っちはその体勢から恐るべき跳躍力でソファの背もたれを飛び越えて、俺の隣に着地した。んなムチャクチャな。あまりにもフォームレスかつ見事なジャンプに、俺は思わず呆気に取られて口を開けたまま固まってしまう。
一方、着地した青峰っちはと言えば、カエルっぽいポーズで俺の方に向き直ると、そのまま顔面から俺の方へ倒れ――

「コラァアアアア! どこに顔いれてんだエロ峰!」
「いってーっ!」

迷うことなく俺の股座に鼻先を突っ込んできた青峰っちの後ろ頭を反射的に引っぱたく。
いい音っス。身の詰まったスイカ叩いたみたいな音したっス。

「ジョーダンだっての……」
「アンタがやるとジョーダンで収まらないんスよ! はいあっち向いて!」

肩を押して左半身を下にする格好で寝てもらって、膝っていうか太股の上に頭を固定。
しばらくごそごそしてた青峰っちだけど、ちょうど良いポジションを見つけたのか、ふっと大人しくなる。

「じゃあやるっスからね。急に動いたりしないでよ」
「うーす……ってつめた。なにそれ耳掻きか?」
「耳掻きっていうか、アメピンっス」
「アメピン?」

俺が手に持っているのは、先端がカーブしている何の変哲もない黒いヘアピンだ。

「我が家では耳掃除といえばこれなんス。あの匙みたいになってる木のヤツとかは結構痛くて、これだと角が無いし、ここの輪っか状になってるところに引っかけられるから便利なんスよ」
「へー。お前も親にそれでやってもらってたのか」
「そっス」

そう思うと、なんだかヘンな感じ。
小さい頃、俺が母さんにしてもらってたことを、こんな風に青峰っちにしてあげてる。
これってやっぱ、家族の特権なんだろうか。そう思うとすごく嬉しい。

「んっ、う、んぁ……っ」

力加減がわからないので慎重にピンを進めると、青峰っちの鼻から小さな声が漏れた。
顔が俺の腿にくっついてるものだから、体の中に直接音が響いてくるようでドキドキする。
そもそも青峰っちの声セクシーすぎて心臓に悪い。

「っ、く、……ぶ、っひゃひゃ! くすぐってーよ黄瀬!」
「うーごーくーなー! 危ないっしょ!?」

すぐこれだ。俺は青峰っちの頭を押さえつけて、さっきより若干強めに中を探る。「あーうんそれそれきもちいー」。はいはいこのくらいね。わかったっス。
そのうち手持ち無沙汰なのかなんなのか、青峰っちは俺の膝を猫の頭を撫ぜるみたいに、ゆっくり一定のリズムでさすり出した。
優しい手つき。触れたところがじんわりあったかい。
ただそれだけで幸せで仕方なくって、自然と笑みがこぼれる。

「――はい、じゃ反対。こっち向いて」

だんだんと興が乗って来たのもあって鼻歌混じりで入念に青峰っちの右耳を掃除した俺は、その背をぽんぽんと叩いて体の向きを変えるよう促した。青峰っちは素直にこちらへと向き直る。あ、目がだいぶ眠そう。寝ててもいいよって思いながら頬を手の甲で撫でると、「うん」とでも言う風に瞼が下りた。
やがて本当に寝息が聞こえてくる。
俺はしばらく目の前の耳を綺麗にすることだけに没頭した。
それもようやく終わろうかという頃、青峰っちはなぜだか俺のお腹に顔をうずめる格好になっていた。
左腕はちゃっかり腰に巻きつかせて、寝転がったまま俺を抱え込もうとしてるみたい。

「ホントに今日の青峰っちは甘えん坊っスねえ」

そっと囁くと、それでもその振動を感じ取ったのか、青峰っちは身じろいで肩を竦めた。
形の良い後頭部や、厚みがあって大きな耳たぶ、今は俺の服にうずもれてしまっているけれど秀でた額や、少し丸みを帯びた鼻のあたま。そういう青峰っちのパーツを確かめるようにして指でたどれば、「んん」声が漏れて顔が幾らかこちらへと起きる。
いつも眉間に刻まれている皺も今はすっかりほどけきり、日ごろ鋭い眼はうっとりと閉じられて、その表情はどこか幼い。懐かしいような切ないような、何よりとても愛しい気持ちになる。出逢ったばかりの頃の青峰っちを思い出すからかもしれない。
青峰っちは寝るのが好きだ。でも別に始終ぐうたらしてるわけじゃ無い。中学とか高校の時はサボりってのも勿論あったけど、実際寝ても寝ても寝足りなかったらしい。(まさに寝る子は育つってワケで、高校入ってからも青峰っちの身長は伸びた)それ以降は海外で寮生活のあと一人暮らしだったせいか、意外にも規則正しい生活をしてたみたい。そりゃそっスよね。だってバスケできるんだから。青峰っちと同じくらいか、それよりももっと強い奴らと毎日のようにバスケできるんだから。早起きにもなるっスようん。
とは言え基本寝るのが好きってのは変わらない。これだけの馬力があり、その分だけエネルギーを消費する体だ。火神っちが尋常じゃない量食べるのと一緒で、青峰っちはそれを睡眠で補ってる。
けど青峰っちはよほどのことが無い限り早く起きる。
俺を起こすために。
とんでもない早朝ロケとかでもない限り、大抵俺より早く起きて、コーヒー淹れてる。
俺も自分で起きられないワケじゃないし、むしろ中高時代は早起きだったし、合宿の時とかもぜってぇ人に寝顔や寝起きの顔見られたくないからって一番に起きてたんだけど、今は青峰っちに甘えちゃってるというか、すっかり青峰っちに起こしてもらうのが習慣になっちゃってるというか。
最初のうちはいいのかなって思って、ムリしてないスかって訊いたらバカにすんなって怒られた。
そのあと青峰っちは俺を見くびるなとかどーたらこーたらぶつぶつ言って、唐突に俺を抱きしめて「お前、もちっと俺に甘えろ」って言った。
俺、青峰っちに甘えっぱなしな気がするのに。ヘンなの。
ただその青峰っちの目がすごく真剣だったから、わかったって頷いた。
んで、だから、青峰っちは早寝で早起き。
その、次の日お休みだからってムニャムニャなことになる時は、また別なんスけど。
……野性が目覚めちゃうから、その時だけは夜行性なんス!
あとねあとね、俺がオフで青峰っちがお仕事の日は俺が青峰っちを起こす当番。
なのに青峰っちが「明日仕事ねーだろ?」とかって無茶するから気を失って目が覚めたら昼になってることが多くてアレ心底なんとかしたい。俺の貴重な楽しみを奪うな。
あ、ああ、青峰っちとそゆことすんのがヤなんじゃないんスけどね!?
――とにかく、そんな青峰っちは、今朝も仕事に行く俺を起こしてくれた。
試合、生で観たかったなあ。早めに切り上がったら打ち上げからでも来いよって青峰っちは言ってくれたけど、ただでさえ部外者で試合観てないのに、そこだけ参加するなんてヘンじゃん。なんとなく、仲間外れみたいな気持ちになる気がするしさ。そのせいもあってあの動画見て余計にエキサイトしてしまったところがあるのは否めない。
ダメダメ、モニタ越しでも見られるだけいいって思わなきゃ。
それに本物の青峰っちはここにいる。ここに必ず帰ってくる。ワン・オン・ワンしよって言ったらしてくれる。キスしてって言ったらしてくれる。俺だってキスしたければこうやって――

「しまった。この体勢じゃキスできないっス……」

いくら体のやらかい俺といえど、これは苦しい。青峰っちそんなに俺のお腹好きなの? お腹もいいけどこっち向いて欲しいなあ。
どちらにしろ青峰っちには一度起きてもらわないといけない。お風呂はこの調子だともう入らないかも。それならそれで白湯でも飲ませて着替えさせて、歯みがきも忘れずさせて、ちゃんとベッドで寝かせてあげなきゃ。大事な体っスもんね。

だけど今はもう少しだけ、このままでいたい。

咽喉のあたりをゆうるりさすると、口角が微かに上がって、俺のてのひらに頬をすり寄せてくる感触。熱くてさらさらしてる。
こうしてると俺は幸せだけど、青峰っちはどうスか。
ほっとできてるかな。
いい夢見れてるかな。
この寝顔がその答えだって、思ってもいいかな。
俺は青峰っちの頭を撫でながら、もう一度呟いた。

「お疲れさまっス、青峰っち」

おやすみなさい。
世界で一番大好きな、俺の旦那様。



20130311 Sweet dreams!



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