SLAP THAT NAUGHTY BODY (中編)


立つように促される。とはいっても狭い車内だ。膝立ちで小十郎の体を跨ぎ、下手をすると天井に頭を打ちそうになるので、首の根元から頭を前に垂れて肩口に鼻先をうずめるようにする。不安定な体勢を支えるためにまわした両腕は、けれども大きく器用な手に捕らわれて後ろにまわされてしまった。

「こじゅうろ、っ?」

戸惑いを隠せないながらも政宗の声はまだ主君然としたもので、咎める響きの方が若干つよい。
しかし小十郎が行為をやめる様子はまったく無く、ならばとばかりにもがいてはみるもののどうにもこの体勢では力の入りようがない上、ちょっとすれば倒れてしまいそうでまともな抵抗にはこれっぽっちもならなかった。くるくるとネクタイを両手首に巻かれ、てのひらを内側、つまり自身の体の方に向けた肩肘が捻られるような格好で縛り上げられる。

「解けよ・・・今日は俺にやらせろ。俺がやる・・・!」

やはり彼も一人の血気盛んな若造、可愛らしいものだと小十郎は思ったが口には出さない。無論、彼は主の欲を満たしてやるつもりだ。方法はいくらでもあるということを教えてやらなければ。

「ええ。後でやって頂きます。」
「!?」
「ですが政宗様、しばらくは小十郎にお任せを。」
「なっ、に、を・・・、」

そう言って見つめてくる小十郎の双眸に、政宗は瞬間息の仕方も忘れて射すくめられる。
もう其処にあるのはいつもの、常に政宗にかしづいている小十郎ではなく、政宗を支配する男だ。雷を孕んだ雲の底のように青黒く濁っていながら鮮烈な光の横切る雄の瞳だ。
既に先ほど少し緩めてあった襟元を引かれ首筋を舐め上げられれば、それだけで肩が大袈裟に跳ねる。更に舌はうなじへ回り髪の生え際まで丹念にたどった。と、不意に胸元に疼痛。見れば小十郎の指先がシャツ越しに胸の飾りを抓っている。何度か爪の先で掻かれただけでそこはぷつりと小さくたち上がった。小十郎は政宗の首から一旦顔を離し、薄く笑い、もう一度おとがいへと近づく。その唇が自分のくちに触れるのかと反射的に瞼を降ろした主の期待を裏切り、翻された小十郎の唇へとシャツごと含まれたのは先ほど弄られた尖りである。政宗はまるでそこじゃないとでもいうように胸にうずまる小十郎の頭を避け身を捩ったがどうにもならず、乾いた衣擦れの音は次第に湿ったものにすり替わり、うっすらと下に色づく突起の姿が透けてきた。その有様を目にしてまた双瞳をつぶる彼の、鍛えてはあるがまだ薄い胸板の柔肉ごと噛み上げて引っ張ればひくっ、としゃっくりのような音が咽喉から転がり出る。

「やっ、め、―・・・ィやだっ!」

歯を食いしばって嬌声をせき止める合間に、尚政宗はささやかに抗い続けた。
しかしだんだんとその意味が変わりつつあることも小十郎は察している。
一方は歯で、もう一方は指で痛いくらいに挟んでこねてやるとなにかを打ち消すようにぶるぶると頭を振る。自由にならない両手がもどかしげに宙を掻いたのがわかる。そうやってどうにか気を逸らそうとしているところを狙ってぐいと彼のスラックスの中で膨らんでいるものを押せば、耐え切れずに無防備な大声が上がった。

「あっ!あ、あ、こじゅ、」
「もうこの様にされて―これでは後が保ちませんな。」
「・・・う!、く、・・・ぅっ、ン、こじゅうろう、ちが・・・っ、」
「・・・何、ですか?」
「―・・・、しろ、よっ、」

布越しの焦れったい愛撫を続けながら、ちらと小十郎は政宗の貌を窺い見る。暗がりにぼんやりと浮かぶ隻眼は、生理的なものと感情的なものが混ざり光る涙に濡れ、頬は上気して普段はあまり血色の良くない面を彩っていた。熱い呼気を吐き出している唇が戸惑うように開かれたかと思うと、素早く、目を凝らさなければわからないほど僅かにだが動く。

「キス、しろっ・・・!」

不思議なことではあるけれど、こういった一言を投げつける時の政宗の表情はどんな言葉を口にする時より恥ずかしげに見える。
愛しいと小十郎は純粋に思った。人に頼ることの下手な、というよりは人に弱みを見せること、よりかかることを許されなかった主の、精一杯の甘え。

「仰せのままに。政宗様。」

首を伸ばし鼻先が触れ合うほどの距離で言う。怯える舌をできるだけ優しく吸う。途端に腕の中の体から力が抜けるのがわかった。
勢い任せに乱暴に昇り詰めさせ叩き壊すのは簡単だし、ただの行為だと割り切り適度な距離で繋げて終わるのも簡単なこと。実際にそうすることも間々ある。
だがそれだけではいけない。

「これ・・・外せ。」
「もう少し我慢なさい。」

命令を拒絶されること。思い通りにいかないこと。だけど優しくされる。労わられる。政宗が求めているのはそういうものだ。
日常を非日常に、また非日常を日常に、気付かぬうちにすりかえていくようにこれらひとつひとつの事柄を繰り返し、暴れて砕け散りそうな心を少しずつ宥め治める。
それは小十郎にしかできない、小十郎にしか許されていない儀式にも似た何か。
口付けを主の思考がままならなくなるまで続けた後、脱がせようと手をかけた下着はぐっしょりと湿っていた。

「ひっ、は、ァあっ!」

ようやっとの直接の刺激に政宗は涙交じりのふるえる吐息をこぼして小十郎の肩口に額をこすりつける。器用な長い指は丁寧に根元から先端へと政宗の性器を扱き、裏筋や下の嚢、時には更に奥の小さく収縮を始めている孔までもをくすぐり掌で包み込む。ん、んっ、とたんびに掠れ声が漏れ響き車内を揺らした。粘ついた音が耳を打つのにさえ煽られるのだろう、それはあっという間に反り返り今にも爆ぜてしまいそうになっている。

「は、ン、はぁっ、ア、あ・・・も、いく・・・っ!」
「駄目です。」
「ひあっ!?」

ぐいと根元を締め上げられ、先端は塞ぐように握られて政宗は左目を見開いて悲鳴じみた声を溢れさせた。何故、という瞳の色に応えるように小十郎はわざと意地悪く微笑む。

「後ろはご自分でなさい。」
「ん、なっ・・・!」
「『俺にやらせろ』と仰ったのは政宗様です。」

そういう意味じゃねえ!と政宗は叫ぼうとした、が、それさえも読みきっているかのようにせき止めている親指で半分開いている性器の先端をくじられ怒声は喘ぎに変わる。羞恥に全身が熱くなるのを覚えながら政宗は、それでようやく手を縛るときにこんな厄介な結び方をしたのだと理解した。なるほど掌を内側にすれば指も使える。普段ならばなんていう知恵の回り方をする奴なんだと呆れさえするのだが、今はもうそんな余裕はこれっぽっちも残っていない。
視線をおそるおそる落とせば小十郎の憎たらしい笑顔、そして見たくも無い、熟れてどろどろになっている自分自身、もっと下には・・・そこで政宗は限界まで顔面を紅潮させると同時に唇の端を吊り上げた。

「そんなこと、言って、・・・お前も、もう、ヤバイんじゃねえか・・・小十郎、っ、」
「否定は致しません。」
「・・・はっや、く、・・・いれたいん、だろ?」
「・・・・・・」

あからさまな挑発にも、小十郎は穏やかな笑みを湛えたまま。
ただその獰猛な黒瞳が決定的に牙を向いたのが政宗にはわかった。

「そうですね。・・・政宗様の中に挿入れて、泣いて許しを請うまで突き上げて掻き回して、滅茶苦茶にしたい。」
「っ!」
「―あんたを喰い尽くせるのは俺だけだ。そうだろう?政宗様。」

戒められていなければ、その言葉だけで達していたかもしれない。

「Ha、ッha・・・!やっぱ・・・お前は、最高、だぜ小十郎・・・!」


20060915


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